第19話 無理

 あー! 無理無理無理無理!


 なんで意地を張って大丈夫なんて言ったのだろうか。でも、あの時の凛ちゃんは完

全に私のことをからかってたし、意地を張らざるを得なかった。


 もっと穏やかで優しそうな女の子がいるのかと思ったけど、いかにも強気というか

勝ち気な女の子と接触することになってしまった。


 漫画とかでよく見る、主人公をイジメるタイプの女の子。異性からも好感を持たれ

るような容姿だけど、キリっとした目つきからは気の強さを感じる。猫目でかわいら

しいのだが、硬派とも言える。


 その見た目通り、初対面の私にも遠慮なく距離を近づけてくる。凛ちゃんみたいに

グイグイ来るタイプには慣れたと思ってたけど、あの時とは立場が違う。相手は年の

近い女の子で、私の秘密を知らない本土の人だから。


 「わあ、マジできれい!」


 無邪気にはしゃぐ彼女は、こうして見るといい人にも見えるのだが、楽しそうにし

ている時の人の本性というものは分からない。素顔は余裕のない時に現れる。小説に

出てくる人が言ってた。


 でも、笑っている顔を見ると、信じたくなる。友達になってみたくなる。


 「結月ちゃん、えいっ!」


 「わあっ!」


 急に火を近づけてくる彼女は、いたずらっぽく笑った。


 「あー、鬼のお姉ちゃんが途中から来たお姉ちゃんをイジメてるー」


 いつの間にか小さな子供たちに囲まれた。


 他人に囲まれて、身体が固まってしまう。小さい子が言ったのだから他意はないん

だろうけど、『途中から来たお姉ちゃん』という言葉に胸がチクリとする。遅れてや

って来た変な人だと言われているように感じてしまう。違うのは頭では分かっている

のだけど。


 「イジメてないっての。途中から来たお姉さんへのスキンシップだよ。ガキには関

係ないから、ほら散った散った」


 おどけながら坊主頭の男の子の頭を撫でて、花火の方へ促す。


 「結月ちゃんかわいいからさ」


 急に声を掛けられた。


 「お友達になりたいな。…なんて」


 少し照れくさそうに下を向く彼女。


 『返信ありがとう。あと、友達になってくれて、ありがとう。俺、すっげえ嬉しか

った』


 交換日記の一文を思い出した。


 光くんのことを、まだよく知らない、1冊目のノートの、3ページ目くらいにあっ

たあの一文。『すっげえ嬉しかった』の一言が照らした私の心。


 この人は、彼のように明るい人だった。


 拳を固めて、ゆっくり息を吸う。吐く。


 「私なんかでよかったら。…茜ちゃん」


 はっ、と猫目が大きく開かれる。


 「すっごい嬉しい! よろしくね、結月!」


 「あ、うん!」


 心の中が、今再び灯そうとしてる花火の日なんかよりも明るく輝いた。それはきっ

と、アニメや映画で観たものよりも光り輝く、現実の青空のような明るさ。平穏と希

望を含んだ、壮大な青。


 多分、いつか、もしも、私が現実の青空を見ることが出来たなら、きっとそれと同

じくらい、今日のこの瞬間は輝いているだろう。


 私は、信じて疑わなかった。


 でも、隣にいる彼女は時折、険しい顔になる。何かを、いや誰かを心配しているよ

うな、そんな表情。


 「シメはやっぱり」


 光くんが言っていた福ちゃん、という男の人が、線香花火を取り出し、みんなに配

る。「楽しかったか?」とにこやかに私に笑顔を向ける彼に、「はい」と笑顔で返

す。私に気を配っているようでいて、そんなつもりはなくただ自分が楽しい気分だか

らそうなっているようにも見えた。


 「どっちが長持ちするか勝負しよ」


 茜ちゃんと一緒に、花火を点火する蝋燭へと歩く。

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