#29 庭でのウェディング

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ライアンのプロポーズを受けるアデル。ウェディングは庭で小さな形で開かれ、ふたりは大切な家族や友だちに祝福される。


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「もうひとつ、ここに来た理由がある」

 ライアンは水平線に沈みかけた太陽を眺めた。アデルも眺めた。この世のものとは思えないほど美しい光景だった。赤く染まった西の空は神々しい光にあふれ、きらめく海の真ん中に光の道が伸びている。そこをたどって夕日のもとまで行けそうだ。

 ライアンがアデルのほうを向き、両手を取ってじっとアデルの目を見つめた。

「アデル・クライン、きみを愛している。きみを幸せにしたい。そして、きみと幸せな家族になりたい。本来ひざまずくべきだが、立ちあがって、いまのこの瞬間を逃したくない。どうか結婚してくれないか?」

「まあ」

 アデルの目に涙が浮かんだ。

「ええ、ええ、喜んで」

 ライアンがポケットから小箱を取りだして蓋を開けた。夕日に照らされて、大粒のダイヤモンドがうつくしくきらめく。ライアンは、アデルのほっそりした白い指を取り、指輪をはめた。

「ありがとう。一生きみを大切にする。約束するよ」

 ライアンはアデルを抱き寄せて、そっと口づけた。金色の光に包まれたふたりの姿を、空と海と一番星が見守っていた。



「アデル、そろそろ時間よ」

 カミラがうながし、立ちあがったアデルの全身をもう一度確認して、手に持ったブーケの位置を直した。

 きょうはライアンとアデルの婚礼の日。秋の空は青く澄みわたり、ところどころに、まるでウェディングドレスのレースのようなうろこ雲が浮かんでいる。屋敷の庭には庭師が丹精込めたバラや色とりどりの花があふれんばかりに咲き、その真ん中に祭壇が設けられた。

 集まってくれたのはライアンとアデルの家族や親しい人々だ。あえて会場を屋敷の庭にして、大きな式にしなかったのは、ライアンもアデルも、家族を大事にしたいと考えたからだ。

 嬉しそうなアデルの伯父と病院のスタッフ、スタディルームの同僚たち、数は少ないけれど大切な友人たち。

 ライアンの姉のミランダ、秘書のフレッド、マリーばあやと執事、そして、ライアンが心から信頼している親友たち。

 モーニングコートを着たハンサムな新郎が待つなか、ブライドメイドのカミラに付き添われて、美しい花嫁が登場する。

 純白のウェディングドレスを着たアデルを見て、全員がほーっとため息をついた。シンプルな形のドレスに、最高級のリバーレースを使った長いベール。白を基調とした庭の花をあしらった花束を持ち、繊細なダイヤのアクセサリーで装ったアデルは、清楚ななかに華やかさがあって、まるで女神のようだった。もちろん、カミラ監修だ。

 ベール越しに翡翠色の瞳が喜びにきらめいている。そっとほほえまれ、ライアンの胸は誇らしさでいっぱいになった。この美しくて頑固で、それでいて優しくて洞察力に優れた、類いまれなる女性を自分は一生涯愛し、守っていく。

 花々の香りと鳥たちのさえずりのなか、家族と親しい人々のあたたかい祝福に包まれて、ふたりは永遠の愛を誓うのだった。

― 完 ―

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