Naissance d'un Roi

「……ここまでだ、モードレッド卿」

 ルーカンとベディヴィアの屍のあった先から、さらに奥。全てを残してきたランスロットの前に、ついにモードレッドが姿を現した。半壊した兜からは、彼の狂気に満ちた顔が覗いている。群青の濃い髪色に、見透かすような赤い瞳。だらだらと垂れ流された鮮血は、今まで見るどの血よりも深い赤に染まっているように思えた。

「大人しく、剣を取れ。私がここで、全てを終わらせる」

 降り立った地面から、いやに生なましい音が聞こえた。それと同時に、幻想的な蝶の群れが、ぬるい風を撫でるようにやって来る。

「……分からないのか? この世界では、全てが私の思い通りになっている」

 口を開いたモードレッドは、直後に歪な笑い声を上げた。それに賛同するかのように、蝶々が彼の周りで乱舞する。

「誰が何をしようと、全て無駄な足掻きだ!! 俺はアーサーを殺し、聖剣を手に入れた!! これでようやく、屈辱の輪廻を清算することができた!!」

 くつくつと笑う彼の瞳には、過去の辛苦が鬱屈しているように見えた。尤も、ランスロットにはそう思えただけだったが。

「全てを終わらせる? ……それはこっちの台詞だ!! ここでおまえを殺して、この世界の真実を塗り替えてやる!!」

 血まみれの手に輝くのは、装飾の美しい「王の剣」。まばゆいばかりに溢れ出す光は――、この世界で、蝶が大きく羽ばたいた証拠だった。

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Birth of the New King 中田もな @Nakata-Mona

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