La Mort du Roi Arthur

 悪い予感というものは、良い予感よりも当たりやすい。ランスロット一行が古戦場に辿り着いた頃には、戦いはすでに幕を下ろしていた。……ありえないはずの屍を遺して。

「な、何故だ……」

 ランスロットの後ろでは、ライオネルがあからさまに動揺していた。その横にいるエクター・ド・マリスも、複雑そうな様子で下を見つめている。

「何故ですか、ランスロット卿!! 何故、アーサー様が……!?」

 ……彼らの目の前にあったのは、アーサーの死体だった。その頭部は原形を留めておらず、辛うじて判断できる程度だ。だが主の姿を見間違える者は、少なくともこの中にはいなかった。

「モードレッド……!!」

 ――そう思ったときには、ランスロットは騎乗して駆け出していた。他の騎士を置いて、たった一人だけで。

「ランスロット卿!?」

「ランスロット卿、お待ちください!」

 呼び留める声はあっという間に後方に下がり、荒々しい戦場も徐々に遠のいていく。一刻も早く、敵に追いつかなくては。彼の頭の中には、最早その思いしかなかった。


 戦いを制したとは言え、重症であることには変わりないはずだ。それなのに、彼は一体、どこまで逃げたのだろうか。

「……!! ルーカン卿!?」

 ――途中、激戦区から離れた場所で、ランスロットは瀕死のルーカンに出くわした。その隣には、血まみれで倒れているベディヴィアの姿がある。

「あ……、ど、どう……して……」

「ルーカン卿、モードレッド卿はどこにいる」

「こ、このさ、き……。ううっ、ぐうっ……」

 ……この様子では、到底助かりそうにない。誰が見ても、それは一瞬で判断できた。

「お、おうの、おうのけん、が……」

「王の剣……?」

 ルーカンの指が弱々しく宙をなぞり、ベディヴィアの方を指した。彼の腹部には、モードレッドの剣が突き刺さったままになっている。武器を持たずに逃亡など、普通に考えればありえない話だった。

「まさか、王の剣が奪われたのか!?」

「あ……、が……」

 ぐったりとした彼からは、最早何の生気も感じられない。一瞬意味のない言葉を発した後、ルーカンは全く動かなくなった。

「くっ……!」

 もう少し、全てが早く済んでいたなら……。思わずそう口にしたくなったが、やったところで無駄なのは分かり切っていた。この世界は、蝶の羽ばたくようにしかならないのだ。

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