13 英雄の名前
それから2日を同じことの繰り返しで過ごした。
相変わらずアランの意識は戻らず心配はしたが、3日目の朝、ようやく薄っすらと目を開けた。
「兄貴! おれだよ、おれ! ベルだよ! 分かるか!?」
アランはまだ何がなんだかよく分かっていなかったようだが、ベルの声を聞くと、
「……ベルか?」
「うん! そうだよ、おれだよ!」
そう答えてベルはうれしくて涙が出てきた。
「……なんだあ……おまえ、また泣いてんのかよ……まったく、よく泣くやつだな……」
アランはそれだけ言うとまたすうっと眠ってしまったが、ベルはもう安心だとその姿を見ながら思いっきり泣いた。
「おまえ、ベルって名前かよ。生意気な」
横で見ていたトーヤがぼそっとそう言った。
「生意気ってなんだよ、トーヤのくせに!」
「どういう意味だよ」
「そっちこそ!」
「俺はちゃんとした大人だからな、けどおまえはガキだ、これからもガキでいい」
「なんだと!」
「こらこら、また」
この頃はこうしたことの繰り返しが多くなっている。
トーヤかベル、どちらかが相手になって言い争いになり、それをマントの人が止める。
「まったく、仲がいいのか悪いのかよく分からないよね」
美しい人がそう言って笑う。
「はあ? こんなガキと仲がいいわけねえだろうが」
「おれだってこんなおっさ、あだ!」
言い終わるまでに張り倒されたのは言うまでもない。
白い人はそれを見てころころと笑う。
「そんで、兄貴はなんて名前だ?」
唐突にトーヤが聞いた。
「アラン」
「アランとベルか」
「本当はアラヌスとアナベルだけど、そう呼ばれてる」
「アラヌスとアナベル?」
そう聞いてトーヤがふいっと顔を上げた。
「アスレイはどうした?」
「え?」
ベルは驚いた。
「いただろ、アスレイ」
「スレイ兄さんは……死んだ……」
「そうか」
それだけ言うとトーヤは黙ってしまった。
「ねえねえ、それ何?」
「ああそうか、おまえはこっちのこういうの詳しくねえもんな」
「うん、なんだか分からないよ」
ベルはトーヤが言った「こっちの」が少し気になったが、どうしてトーヤがスレイ兄さんのことを知っているのかの方が気になり、そちらに意識が向いてしまった。
「あのな、森の開拓民の英雄の3兄弟ってのがあって、それがアスレイ、アナベル、アラヌスって名前なんだよ」
「開拓民の英雄?」
「そうだ」
トーヤが座り直し、話す姿勢になった。
「この世界にはアルディナって女神様が作った『神聖アルディナ帝国』って大きな国があったんだがな、千年ほど前になんでか3つに分かれたんだよ。その中心は今もある『アルディナ王国』、一番でっかい今も世界で一番栄えてる国だ。そしてその西のすぐ隣に少し小さいが『アイリス王国』って国がある。もう一つは東の隣のそこそこ広いがなんつーか、ちょっと辺境って場所だな。それが『アトランド帝国』で、元の帝国の皇帝位を継いでる三公国からできてる国だ。ここまでは分かったか?」
「うん」
「わっかんねえ……」
最初はマントの人、そしてもちろん後のがベルの答えだ。
「おまえにも分かりやすくまとめてやるとな、元々あった大きな国が3つになって、そのうちの一番いなかの国の話だ、分かったか?」
「なんとなく分かった」
「そんでだな」
トーヤはそれ以上聞かずに続ける。
「その3つの公国の一番北にある『ベルツ公国』は元は大森林、つまりでっかい森だな、そこを国が分かれた後で開拓してできた部分がほとんどだ。だからあそこは正確には『アルディナの神域』じゃねえって言うやつもいるぐらいなんだが、そこの開拓民の言い伝えにあるんだよ」
「さっきの英雄の話がか?」
「ああ」
トーヤは続ける。
「ある時、開拓民の村に蛮族が攻め込んできた。それを見つけたのがさっき言った3人でな、一番上のアスレイはすぐに
「うん、分かった」
ベルの返事だ。
「次に真ん中の長女、アナベルな、こいつがまたすごかった」
「どんな風に?」
ベルは自分と同じ名を持つという女性の活躍に興味津々だ。
「襲撃は真夜中だったんで3人とも寝てたんだよ。親はなんだっけかな、なんだったか忘れたがその時はいなかったらしい。そんで森の一番はずれの家にいた3人だけが気がついたわけなんだが、寝てたから当然ちゃんとした服は着てねえ」
「だよな」
「そんでアナベルは下着姿だったんだが、その上にやっぱりボロい
「下着姿でか?」
「そうだ。女ってのは着付けに時間がかかるからな。そんな時間はないってので、下着姿にボロい鎧で軍の本部に走り込んだ、それを聞いた軍がやってきて、それで蛮族を撃退して国が助かったって話だ」
「それで英雄か~」
「だな」
ベルはなんとなくうれしかった。
「俺もそっち出身ってやつに聞いただけであんまり詳しくは知らねえが、そういうことで、英雄にあやかってその名前をつける森の民は多いんだそうだ。順番からいくとアスレイが一番上だからな、だからいたんじゃねえかなと思ったわけだ」
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