第7話 差別主義者の解決術
「…………」
鷹山は机に置かれた缶コーヒーを見つめている。柴浦の問いに彼は無言を貫いている。
「鷹山にとって、エメリッヒの事件は重要なことじゃなかった。たぶん、咲良ちゃんも分かってると思うよ」
ここでようやく「あぁ……」と小さく答えた。
「エメリッヒが殺されようが自殺しようが、鷹山には一切興味がなかった。そんなことよりも、弘田って男が『人間を殺した』ってことの方が重要だったんだろ?」
「そうだな。俺にとっての江ノ島殺人事件はエメリッヒじゃなかったさ。それに所詮エメリッヒはロボット――いや、たかが機械にすぎないさ」
「おまえ……」
「俺にとって、エメリッヒは人間を脅かす存在でしかないのさ。分かっているとは思うが、報告書にまとめた推察、
鷹山はコーヒーを手に取ると一気に飲み干した。
「たしかに、エメリッヒは感情を持ち合わせる。だけど、それは人と同じものではない。エメリッヒが人と同じ感情なんて持てるはずがない。持たせてはいけないんだ」
「エメリッヒが人間と同じ感情を持ったら人間を脅かす存在になるって言いたいのか?」
「その通りだよ。エメリッヒが人と同じ感情を持ったなら、それは新たなる人類として成り立つ。人とエメリッヒに上下関係はなくなる。三原則は消え、エメリッヒが上に立つ存在になるんだ。その時、人類は終わりさ」
鷹山は、缶コーヒーを人類に見立てたように握りつぶした。
「まさか、研究者たちが焦っていたのは――」
「そう。この考えの恐ろしさはエメリッヒの研究者が一番わかっているはずだ。ツバキってエメリッヒはすぐに調べられて、所有者の元には帰らずに長らく研究対象になるだろうな」
「でも推察はデタラメなんだろう?」
「ああ、恐らくな。……あるいは、もしかしたら真実かもしれないがな。でも、デタラメだからいいんだ。俺はエメリッヒが製造元へ回収されるように仕向けたのさ」
そう言った鷹山の目に揺らぎはなかった。その目に柴浦は恐怖すら覚えた。
柴浦は恐る恐る尋ねる。
「……どうしてそんなことするんだ?」
鷹山は立ち上がって会議室の扉へと向かう。ドアノブに手をかけたところでこめかみを掻いてから振り返った。
「――そりゃあ、俺がロボット差別主義者だからさ」
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