第1-6話 白い雪

「俺と結婚しないか?そしたら不安もなくなるだろう?結婚したら新婚旅行で海外旅に行こう。美琴が好きな雪景色も見せてあげるよ」

これは、誰の記憶だろう?誰かの記憶が伝わってくる。

「やめろ、それ以上自分の身体を痛めつけるんじゃない。頼むからもうやめてくれ...お前の身体がボロボロになるのは見たくないんだ」

咸月はこの声に聞き覚えがあった。これは確か容疑者藤本康太郎の声。

ということはこれは桂木美琴本人の記憶?咸月は少しづつ状況を理解しつつあった。進藤さんと突然途切れた後、プシュケに囲まれそこからの記憶がない。プシュケが私の周りに集まったということは恐らくだがサイコープが失敗したのだろう。行き場を失ったプシュケはドナーの周りに集まると言われている。

早くここから抜け出して再度サイコープを実施しないと。これ以上プシュケを通じて干渉し続けると身体が思うように動かなくなってしまう。

途端に吐き気に覆われた。さらにはち切れそうな頭痛が襲ってくる。

「何故こんなにも早く!?あれから5分とたっていないのに...頭が痛い...」

「ドナーダイブ中ドナーは容疑者と被害者のその時々の感情や身体の状態に影響されやすい言われている」

急に講師の言葉を思い出した。いや、違う、彼女は病気か何かだった?


ゴパッと喉が鳴る音と同時に酸っぱい匂いが流れ込んできた。

咸月はこの場を脱せる方法を模索しようとしたが、プシュケを通じて絶え間なく彼女と彼との記憶が流れ込んでくる。

「見てよ、雪が降ってるよ!!綺麗...」

「これは雪なんかじゃない。早く病院に行くんだ」

「約束したじゃない、私と一緒に遊びにいくって!!」

「これで全部なのか!?」

「誰からこれを貰ったんだ!?」

「だって康太郎が私を一人にするから!!私さみしいんだよ?」

「どうすれば、どうすればいいんだ...」

「もうひとりにしないでよ」

「何度言ったらわかるんだ!!もうやめるっていったじゃないか!?俺に約束するって」

「ばかやろう...どうして覚醒剤なんか頼ったんだよ...もうお前の身体ボロボロじゃねぇか...」


「まさか、彼女は薬物中毒だったってこと!?」

咸月は血の気が引いていくのを肌で感じた。咸月はこんなにも早く自分の身体を蝕んでいた理由が覚醒剤による幻覚症状や現実認識能力の欠如あることを理解した。

「は、早くここから出ないと...」うっすらと意識が霞んでくるのがわかった。


「先生、彼女を助ける方法はないんですか?」

「あの時の優しかった笑顔を見たいんです」

「俺はどうしたいいんだよ...」

「大丈夫、君を必ず元に戻して見せるから。俺は君が幸せになって欲しいんだ。あの頃に僕に見せた笑顔をもう一度見たかったけど、ごめんね」

「君を殺すよ」

「く、苦しい...痛い...助けて...どうして」

「あ、がぐっ!!」

「どうして泣いてるの?どうして私を殺すの?」


「もう...やめて...助けて...」咸月は朦朧としながらも最後の言葉を振り絞った。


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