第12話 最高の秘密道具

「クンカ、クンカ・・・クンカックンカ」

兄スワンに借りたクリスの靴下を清麻呂は熱心に嗅いでいる。

翔太が用意した警察犬というのは、清麻呂だった。

清麻呂は、生まれつき嗅覚が良いらしく、他者の体臭を遠くからでも見分けることが出来るらしい・・・。

警察犬というより、トリュフを探す豚に近い。


「どうだ、清麻呂?」

ぼくちゃんは、よだれを垂らしながら、鼻息を荒くする清麻呂に聞いた。

「ハァ・・・ハァハァッ、芳醇なミルクの香り・・・」

「匂いの感想は聞いてねぇーよ!!!クリスの居場所は分かるか?」


ぼくちゃんは、反射的につっ込んでしまった。

(この感覚久しぶりだな…)

清麻呂がクリスの靴下のにおいを嗅いで場所がわかると翔太が説明した時のスワンの顔や仕草が今でも忘れられない。

スワンは、汚物でも見るような目で、清麻呂を見ていたがそれでクリスの居場所がわかるならと持ってきたクリスの靴下を嫌そうにしながらも渡してくれた。


「ヒヒッ、優秀な警察犬がいると調査が早く進みますな。」

翔太は、不敵な笑みを浮かべてぼくちゃんを見ている。

確かにそうだと思いながらも、清麻呂の嗅覚には感心する。


「ハァ・・・ハァハァッ、デェフかああああああ・・」清麻呂が急に反応して走り出してしまった。


「ヒヒッ、警察犬が反応したぞ!?」

翔太が笑いながら、清麻呂の後を追って走り出したのでぼくちゃんもそのあとに続いた。


「クリスたーーーーーん!!!デェフかああああああぁぁぁっぁ」

清麻呂は四つん這いになり、物凄い勢いで駆けていく、完全に野生に戻っていた。


「おい、清麻呂。勝手に行くな!」

「ここだあああああぁぁぁぁっぁぁっぁ!!!」

ぼくちゃんの静止の声も届かず、清麻呂は一軒の家の中に入って行く。


「ヒィヒィ・・・やれやれ、奴や人間をやめたなぁ」

体力のない翔太は、家の前で座り込み悪態をつく。

ぼくちゃんは「我は、ここで休んでから行く」という、翔太を置いて清麻呂を追う。


ぼくちゃんは清麻呂が入った家に見覚えがあった。

そこは、昼間にぼくちゃんと翔太が聞き込みに訪れた道具屋だったからだ。


清麻呂はなんだか迷っているみたいだ、清麻呂が言うには道具屋のそこらじゅうからクリスの匂いがするみたいだ。


「あ~幸せな匂いに包まれて幸せデェフかああああああ…」

清麻呂は興奮しているみたいだが、店中に清麻呂の声が響き渡った。


「おい、清麻呂。静かにしてくれ!何か手がかりああるはずだ…細かいことでもいいから気がついたら教えてくれ。」

ぼくちゃんは、清麻呂に聞こえるか聞こえないかの小声で話しかける。


「分かったデェフ…それよりも気になることがある、あの扉の向こうからクリスたんの匂いが強いような気がするデェフ」

清麻呂がそう言って奥の扉を指さした。

ぼくちゃんは、その清麻呂が指した扉を見て冷汗が止まらなかった…

なぜならその扉は、翔太とこの道具屋に聞き込みをしに来た時に店主が出てきた裏勝手口の扉だったからだ。


ぼくちゃんはおそるおそる扉を開けた。

その部屋は、薄暗くなにか生臭い匂いがした。部屋の中央にはベットがあり、クリスが寝かされていた。

ぼくちゃんは、急いでクリスの元へ向かう。ベットに寝かされたクリスは両手両足を固定され、身動きが出来ない状態で、さらに目隠しをされ視界を奪われていた。

寝ているのか呼吸をゆっくりとしていた。

とりあえず、クリスが生きていることに安堵した直後、部屋の明かりがついた。

先ほどは、薄暗くて気づかなかったが、部屋一面に血の跡が付いている。

先ほど感じた生臭い匂いの正体だ。

ぼくちゃんは、その部屋の光景に唖然としていたら、後ろで声がした。


「あらあら、やっぱり辿りついてしまわれたのですね」

美しい女性の声だ。きっと部屋の電気をつけた人物だろう・・・。

ぼくちゃんは、ゆっくりと後ろを振り返る。そこには、昼間話した道具屋の店主がいた。


店主はゆっくりとぼくちゃんたちの方に歩み寄って来る。

よく見ると、手には包丁に似ている小型の刃物が握られていた。その刃物から、血が滴り落ちている。


「相当やばい状況デェフ、あのエルフはメンヘラツンデレさんデェフ…早くクリスたんを救わないとやばいデェフかあああ…」


清麻呂にもこの状況が分かっているみたいだが、なんだか観点が違うみたいだがクリスを助け出すことが優先事項なのは同意する。

(早く行動しないと、店主にぼくちゃんたちが殺されるのが先かもしれない、どうするか…)


「なぜですか?店主さんがクリスをさらう理由はなぜですか?」

ぼくちゃんは、店主に質問して時間を稼ぎながら考えることにした。


「あら、ご存じないのかしら、エルフは金になるのよ。血肉は、長寿の薬の材料として高く取引される。大国のお偉いさんが欲しがってるのよ」

つまり、ここで殺してバラバラにして、臓器を抜き取り売りさばいてたというわけか。


「まぁ、性奴隷の方が高く売れるんですけど、運搬方法がねぇ・・・」

道具屋の店主はベラベラとしゃべってくれた。まぁ、その理由はぼくちゃんたちを口を塞ぐ前提のものだろうが・・・。

ぼくちゃんは、少しも悪びれる様子のない店主に怒りを覚える。

金。金が理由で沢山の少年少女の命を奪ったのか・・・?そんなつまらない理由で。


「言いてーことは、それだけか?」

ぼくちゃんは店主を睨みつける。一瞬、店主が怯む。

ぼくちゃんたちは、異世界人だ。『異世界人はチート能力で無双する』店主はそう思い込んでいるだろう。そこにぼくちゃんたちの勝機がある。


ぼくちゃんは、清麻呂に合図を送った…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生したぼくちゃんは異世界でもオタ活がしたい 上ジョー @Hiroki0813

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ