第17話 三つの固有技能

「カーヤがこんなに強くなってくれたんだし、私も負けてられないよね」

「リゼットちゃんはあたしが守るから、別に無理しなくてもいいんだぞ?」

「凄くありがたいんだけど、それだと私がダメ人間になっちゃいそうだから……」


 カーヤはいい子なんだけど、いい子すぎてダメ人間生存機の素質があるから要注意だ。親しき仲にも礼儀あり。いくらカーヤが色々やってくれるからって、それに甘えてばっかりではいけない。


「私もこの二年で強くなったんだよ」


 確かにカーヤは誰が見ても唸るほど強い魔剣士に成長したが、何も強くなったのは彼女だけではない。私だって魔法の修行を繰り返したおかげでちゃんと強くなれたのだ。


「私はいわゆる普通の魔法が得意じゃない」


 現代では、事前に魔法式を組み上げて設計した魔法陣を魔力か、あるいは物理的な模様として展開することで自分の魔力を状態変換して魔法を放つ方法が一般的だ。この魔法陣を利用した方法だと、事前に魔法式を記述しておくことができるので比較的複雑な魔法でも瞬時に発動ができるという利点がある。他にも規定量の魔力を注ぎ込めば誰でも同じ威力が出せるという点も大きい。

 一方で、ただ魔法陣を暗記しているだけだと土壇場で応用が一切効かなかったり、あるいは規定量に満たない魔力しか注ぎ込めなければ魔法が不発になってしまうというデメリットも存在している。

 私はこの現代で主流とされている魔法陣方式の魔法が、あまり得意ではない。もちろん時間を掛けて紙や地面に魔法陣をチマチマと描いていけばしっかりと発動自体はするのだが、記憶した魔法陣を魔力の光で投影するという応用技が全然これっぽっちも上達しなかったのだ。

 簡単なものならできなくはない。でも、複雑なものになるとどうしても図形が暗記できない。加えて魔法陣方式では私の苦手な数学的な思考が必要となる分、どうしても暗記一辺倒になってしまって応用も利きにくい。


「だから私は古代魔法文字、すなわちルーン文字を使った魔法を中心に、この二年間修行をしてきたの」


 ルーン文字を利用した方法であれば、条件設定が複雑ではない分、注ぎ込む魔力の量次第でいくらでも威力や規模の調節ができるし、ド文系の私にも魔法の発動プロセスが理解しやすい。

 そもそもこの遺跡が作られた昔の時代にはルーン文字方式しか魔法の発動手段がなかったこともあって、ルーン文字による魔法の資料には事欠かなかった。そうして何千、何万という魔法に関する本を『速読』で読み続けて、その度に新しく魔法を練習して習得していったことで、最終的に私は三つの固有技能に目覚めた。


 まず一つが『思考加速』だ。余剰次元への魔力固定化・保存実験の成功を機に、常時発動が可能になった『速読』で朝から晩までひたすら本ばかり読んでいたら、いつの間にか『速読』が進化して固有技能として定着していたのだ。

 この『思考加速』、何が凄いかって、発動条件が存在しない――――つまり常時発動型のパッシブスキルなのだ。だから普段の日常生活では違和感なく過ごしていても、突然何かの拍子に不意打ちを喰らった瞬間には『思考加速』が自動的に発動して迎撃が可能になるということである。これのおかげでなんと私は何もないところで転ぶことがほぼなくなった。加えていえば、積み上げていた本の山が崩れ落ちて下敷きになる前に本を支えたり、料理中に調味料をこぼしてドバドバ入れてしまう前に瓶を掴んで止めたりすることもできるようになった。

 以前の私と比べたら物凄い進歩だ。こんなに凄い技能なのにもっぱら日常生活でしか活かされていないのは、まあご愛嬌ということで見逃してもらいたい。


 次に目覚めた固有技能が『魔導書架アカシック・レコード』。これは『思考加速』のおかげで魔導書の読破スピードが更に劇的に向上し、一日に数百冊とかを読めるようになった結果、膨大な魔導の知識を私が手に入れたことで発現した技能だ。

 どういう技能かというと、一度読んだことのある魔導書の全てを脳内でデータ化して複製保存しておくことができるというものだ。保存できるものは魔導書に限られるが、容量は無限。検索機能がついているので、忘れてしまった内容とか知りたい内容とかを思い浮かべるだけで、かつて読んだ魔導書の中から近い候補をいくつも提示してくれる素晴らしい技能である。

 これのおかげで私は魔法の発動に必要な詠唱呪文を覚える必要が一切なくなった。使いたい魔法を思い浮かべるだけで、それに相応しい呪文が脳裏に浮かび上がってくるのだ。つまり私は本を読むだけで使える魔法がどんどん増えていく技能を手に入れたということだ。数万、もしかしたら数十万に届くかもしれない無限の魔法が使えると考えれば、間違いなくこれはチート技能だと言えるだろう。


 そして最後に発現した三つ目の固有技能。これが私の一番欲しかった技能であり、一番強い技能である。

 その技能とは――――



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グリモアライターになろう 常石 及 @tsuneishi

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