14・彼我

「後で難癖を付けられてはかなわん、得物は選ばせてやる」

 アレックスは騎士団演習場に併設されている備品庫の中に居た。

 勝敗の判定を公平に行うため、試合には必ず副師団長以上の者が同席する事が定められている。

 ユーゲント中佐が師団事務所に姿のない副師団長を探しに行っている間、試合でつかう武器を選びに来たというわけだ。

 騎士団は国を護るためにある。貴人警護や戦場でならいざ知らず、団員同士が戦って死ぬのは不名誉なこととされている。ゆえに試合では、実戦使用されるものと同様の物の刃を潰したものを使用する。

 それでも打ちどころが悪ければ怪我は免れないが、不幸な事故は回避できる可能性が高い。

 緑の隊服を着た尉官―――イルキスという名らしい―――が、好きな武器を選べと言っているが、正直その言葉を素直に受け取る事はできなかった。

 先にこの男が武器を決めているなら、それに合わせて相性の良いものを選ぶこともできるが、結局先に選ばなくてはいけないのならどれを選んでもそう変わりはない。

 故にこの尉官はこちらの選んだ武器を見て、それに対する間合いの有利なものを選ぶような気がしてならない。

 アレックスは内心で、まぁいいか、と呟く。

 戦いはいつでも有利に立ち回れるわけではない。どんな状況でも勝てなければ意味がないのだから、今更武器ごときで迷っていても始まらない。

 アレックスは結局、握りが一番細身だったレイピアを手にとった。

 貸与される武器はどれも一般的な男性の手に合わせて作られている。手になじまない武器でもそれなりに戦えはするが、少しでも違和感をなくしておきたかった。

「また似合いのものを選んだな。そんな細い剣で大丈夫か?」

 馬鹿にするようにイルキスが言うのに、無感動に振り返る。

 何を選ぼうとケチをつけたいのはわかっているが、アレックスは安い挑発には乗らなかった。大丈夫です、とだけ返す。

 こちらの武器が決まったと見てとって、イルキスは武器架の間を移動し始めた。

 何を選ぼうとしているのか予想はついている。おそらくハルバード槍斧だろう。

 尉官に上がった時点で戦場での戦闘を想定した馬上訓練が本格的になる。日常よく使っているもので、なおかつ間合いの広いハルバードなら、レイピア相手には戦い易いと判断するだろう。

 アレックスはあえてそれを確認せず、備品庫を出て先に演習場へ向かった。集まった人だかりの内側へと入って行く。人のいない開けた場所で足を止めた。

 師団入りしてからの訓練で肉体は絞られて、鈍ってキレに物足りなく感じていたのは消えた。雪山での訓練後に与えられた休暇をゆっくり休んだおかげで体調も良い。朝から訓練していたおかげで体はほどよく温まっている。

 細身の剣を手に下げて、その場で一時目を閉じる。

 小さく息を吸い込めば、暮れ始めて冷え込んできた寒気と、踏み荒らされて舞った砂塵の埃っぽさが鼻腔を通って肺を満たす。

 意識は鋭く冴え渡って、集まった観衆の話し声が、どこか遠くの方で響いていた。

 瞼を開くと、対面にハルバードを手にしたイルキスが立っていた。負ける気はしなかった。

 やがて、副師団長を捕まえたユーゲント中佐が戻ってきた。

「双方試合の意思に変わりはないな?」

 事の次第はユーゲント中佐から聞いているのだろう、試合に至った経緯も、試合をすることを咎められる事もなかった。

 副師団長の言葉に、二者は揃ってその意思に変わりはないと伝えた。

「相手を殺害することはまかりならん。俺が終了と言うまで試合は続行される。自分の意思で試合をやめる時は、参ったと言うこと」

 アレックスはそれに黙って頷いて、レイピアを胸の前に構えた。

 イルキスを見据えると、足を開いてハルバードを構えている。

「始め!」

 開始の合図と同時に、アレックスは走り出した。

 どうせこちらがあちらの間合いに来るのを待っている。にらみ合う時間が惜しいから、早く方をつけたかった。

 アレックスがハルバードの槍先にかかる間合いに入った所で、それが前に突き出される。

 その動きを予測して、切っ先が己を捉える寸前でアレックスはトンと地を蹴った。

 ふわり、と体は側転するように回転しながら宙を舞って、押し出されたハルバードの柄の部分に着地する。

 いくらアレックスが一般的な騎士団員よりも華奢だといっても、人一人の荷重がその二の腕に掛かればひとたまりもない。

 ぐらり、とイルキスの体が傾いで横倒しになって行く。もちろん本人の視線の先にはアレックスの足しかない。

 倒れるか倒れないかの寸前で、アレックスは足にグッと力をいれてそれを蹴り出して、イルキスの後背に回り込んだ。宙を舞う間一度も胸元から離れる事の無かったレイピアがヒュッと空を切る軽い音が周囲に響いたその刹那。横に傾きながら前のめりに倒れ込んだ男の項に細い切っ先が突きつけられた。その間、わずかばかり。

「終了」

 副師団長のよく通る声が、試合の終了を告げた。

 観衆の声が、思い出したようにその場にどっと湧いた。

 ロルはその光景を、眩しいものを見るように眺めていた。

 空を見上げたアレックスの瞳が、夕焼けの色に染まっていた。



「座れ」

 師団事務所の奥にある師団長室の簡素な応接セットに、副師団長―――ソルマーレ・ルドン大佐が座っている。

 イルキスはその指示に従って、彼の対面の席に腰を降ろした。

 ソルマーレの副官であるユーゲント中佐は事後処理があると言って席を外しているので、その場には彼と自分の二人しかいない。

「試合に至った経緯はルカから聞いている。それで、組み合ってみてどうだった」

 膝の上で両手を組んでその上に顎を載せているソルマーレの、覗き込むような視線と目が合う。

 咎める風でもないその視線が、試合に負けた自分にはただただ痛い。

「怖いな、と思いました」

 率直に思った事を短く口にしながら、それでも、その言葉がもどかしい。

『隙がない』とか『速い』とか、試合の一部分を切り取ってしまえばそれを評する事はそう難しくない。だが、その言葉ではあの試合の本質を説明しきれないような気がした。

 王太子に色目を使ってコネで師団入りした顔が良いだけのヤツだろう、と侮っていたのに。

 しばらく、その場を沈黙が支配する。心の中を見透かされるようなソルマーレの視線に、言い訳のように言葉が口からこぼれ落ちる。

「尊崇する王太子殿下に近づくあいつが許せませんでした。一般兵訓練も受けずにコネで師団入りをゴリ押しして、忖度されて濃紺に上がるなんて、そんな事があって良いはずがないって」

 黙ってイルキスの話を聞いていたソルマーレは、組んだ手を解いて背もたれに背中を預けて長いため息をついた。

「まずな、前提条件が間違っている」

「前提条件、ですか」

「今から話すことは、他言してはならん。本来なら佐官でも俺の階級以上でしか知らん話だ」

 そう言って、ソルマーレは一旦口を閉じる。

 ソルマーレの階級は大佐。それ以上の階級という事は、軍でも中枢にいる者しか知らないという事になる。

 思考を整理するようにしばらく黙り込んで、区切りをつけるように小さく息を吐き出す。

「カイルラーン殿下の正妃候補選出の話が持ち上がるよりも何年も前から、アレックスを女性近衛にという話はあったんだ。グスタフ卿からも、内々に打診されていたしな」

 女性王族の身辺を警護するのに、男ばかりの騎士では不足があった。女性の寝所や化粧室には踏み入ることができないからだ。今の王宮ではその対象となる者は現王の正妃と側妃一人の計二名だが、将来的に王太子が正妃を娶った後の事を考えても、一定人数の女性騎士は確保しておかなければならなかった。

「当時あの外見は誰も知らなかったし、グスタフ卿からの打診だけでは男とも女とも判断できない曖昧な者を入れる事はできないという意見が趨勢でな」

 女であるならば良いが、男だった場合、間違いがあってはいけないという意見が大半を占めた。だが、それが建前であったのはソルマーレにはわかっている。

 ただでさえローゼンタールの力は強い。軍部だけではなく、自分たちの手出しできない後宮から内部を掌握されてはかなわない、という御歴々の思惑があったように思う。

「アレックスは自身の十七歳の誕生月に一般兵科に入団希望を出している。軍はそれを許可しなかった。理由はまたしても、男ではないから、だ」

 ソルマーレの言葉に、イルキスは眉根を寄せた。自身の経験してきたことと同種の臭いを感じ取ったからだ。

「軍部の思惑で女性騎士の道を閉ざしておきながら、今度は男性騎士としての門戸も固く閉ざす。アレックスには絶望しかなかったろう……自身では抗えぬ福音という星を背負わされ、他人の思惑で歪められる道に」

 自分が思っていた以上に、深刻な事柄なのだと理解してイルキスは言葉を失った。

「伝え聞く限りでは、グスタフ卿は引退直後からアレックスを騎士として育てていたという。グスタフ卿がなにを思ってアレックスを育てたのかはわからん。だが、あれだけの能力を持っていながらどこにも下ろす場所がないのだとしたら、本人の苦痛はどれほどのものだろうな。使うあてのない能力を磨くその行為とは……俺には想像もつかんよ」

「そんな事が……」

 イルキスはぐっと呻く。

「確かに一般兵としての訓練を騎士団では受けていない。だが、訓練期間はおそらくお前よりも長い。戦ってみてわかったな? あれはそんな生半可な訓練は受けていない。孫だからといって手緩い訓練などされていない」

 向き合って見て思ったのは、アレックスにはとにかく隙がないということだ。騎士としては明らかに小さいのに、自分に向かって突進してくるその姿に威圧された。それでいてその足取りも動作も恐ろしく俊敏で、あっ、と思ったときには勝敗は決していた―――自分よりもはるかに強い、ということだけは分かった。

 馬鹿な事をしている、という自覚はあった。王太子の正妃候補に難癖をつけたとて、上の決定は覆らない。それでもカイルラーンを尊崇するその心に入りこんだ妬み嫉みに気持ち良く酔った。公平公正で知られるシルバルド師団に泥をつけやがって、と。

 今にして思えば、庶子妾の子として不遇を受けた自分の溜飲を下げたかったのだと思う。

「グスタフ卿の影響力で師団入りをゴリ押しした、というのはある意味では間違いない。だが、そうせねば道を拓く術がなかったのだとも言えるだろう。王太子殿下に色目を使うというのも、師団入りしてまでやらんでも、あれだけ美形なら女装して着飾る方が確実だろう。評価訓練で濃紺に上がったのは、忖度などなく実力で上がったというのも今ならわかるな? あの時参加していた士官候補生の中で、成績は一位だったんだ」

 庶子として生まれ人の悪意にさらされ不遇を託った自分が、たった一つまともに拓いたのが騎士としての道だった。ここでは自身の能力は正当に評価され、家も生まれも過去も無視してただ前を向いていれば良かった。その自分が、なんと愚かな事をしたのだろう。

「誰もが皆、ままならぬ運命を抱えている。お前はそれに気づかなくてはならなかった」

「はい」

 イルキスは恥じ入って俯いた。

 おそらくグスタフ卿の力を使えば女性近衛でも騎士団でも、いくらでも席は用意できたに違いない。それでもここに至るまでそれをしなかったのは、こうなる事が分かっていたからだろう。一番影響力の薄い王太子直属の師団に士官候補生として配属されてなお、くだらない噂はついて回った。はからずもそれを、自分が後押ししてしまう結果となってしまった。

「辞めるなよ」

 染み入るように静かに紡がれた言葉に、え、と顔を上げる。

「自分のやったことから、団を辞めて逃げたりするな。それは責任を取ったことにはならん。規定上アレックスは少尉に上げる事になる。同じ階級になれば顔を合わせるし、他者の批判や陰口もあるだろう。恥辱に晒されるのは苦しい。それでも、真に王太子殿下を尊崇するならば、耐えて自分を高めてお仕えしろ。アレックスに済まないと思うなら、あいつの能力を素直に認めてやれ」

 ソルマーレの言うとおり、自分のしでかした愚かな行為の責任は取らなくてはならない。

 イルキスは肩を落として頷いた。

「わかりました」

 

 

 試合から三日が過ぎた。少尉への昇進の通達があったあと、自室には尉官用の緑の隊服が届いていた。

 それ以外にも、尉官昇進したことによって可能になったことがある。厩が一房割り当てられることになったので、レグルスを城内に入れられる事になったのだ。

 後宮入りからずっとローゼンタールの本邸に預けたままになっていたのが気がかりだったが、やっと自分で世話してやれる。

 ローゼンタールの本邸に、レグルスを届けて欲しいと手紙を出したら、伯父が連れてきてくれるという返事がきた。

 レグルスは気難しいやつだから、伯父といえども背にはぜったい乗せないだろう。だから、おそらく伯父は自分の愛馬に乗って、レグルスを引いて来るに違いない。

 状況が状況だけに仕方がなかったが、長い間放っておいたから怒っているだろうな、と思った。

 相棒を連れてきてくれるのはローゼンタールの二番目の伯父で、現王ディーンが王太子時代に率いていたクレスティナ師団の団長を勤めている。

 もちろん妻帯していて本邸を出ているので、朝の出勤前にわざわざ本邸経由でシルバルド師団まで届けてくれるらしい。

 久しぶりに会うな、と思いながら、アレックスは真新しい隊服に袖を通す。肩章は線が一本でこれが少尉の印だ。以降昇級する毎に一本ずつそれが増えて行く。士官昇進したものは、隊服の色とこの肩章の線の数で階級が確認できるというわけだ。

「お支度終わられましたか?」

 朝食の後片付けをしていたサラが様子を見に来た。

「うん、終わったよ」

 そう言って笑ってみせると、サラはパッと顔をほころばせた。

「前の色も凛々しくてお似合いでしたけど、やはりこちらの方が映えますね、肌が白くていらっしゃるから」

 どの色を着てもきっと褒めてくれるのだろうな、と思いながら、それでも褒められると悪い気はしない。

「ありがとう」

 礼を言うと、はい、とサラは顔をほんのり赤らめる。

 彼女が度々そんな様子を見せるので、以前キミーがからかうように茶化したら、憧れなんです、と返って来た。

 アレックスに心を寄せているとか、恋慕の情があるとかではなくて、偶像を崇拝するような気持ちなのだとか。

 一度ダンスを踊っただけだというのにすっかり好かれてしまったが、純粋に慕ってくれるその気持ちは嬉しい。

 どうぞ、と手渡された剣を受け取って、腰に吊るす。

「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃいませ」

 サラに挨拶をして、いつものように部屋を出た。通い慣れた道を歩いて、後宮から内宮にかかる通路を通る時、通路脇の小さな庭園の木陰に女性がいるのが見えた。おそらく正妃候補の内の一人なのだろう。

 侍女も連れずに珍しいな、と思ったが、関わる気はないので声は掛けない。

 そもそもアレックスは師団に行かなければならないので朝は早く、自室に帰ってくるのも日が暮れてからが多い。生活サイクルが合わないのか、今までアゼリア・ハイリンガム以外の令嬢と城内で出くわしたことは無かった。

 視界に写りこんで流れ去っていくその後ろ姿の、小麦色の長い髪だけが印象に残った。

 内宮の入口に立った監視兵に会釈して外宮の本通路に足を踏み出すと、いつものように一般兵の姿が見え始める。

 師団入りした当初こそ物珍しかったのか、出くわす兵にことごとく驚かれたが、なれたのか噂が一巡しきったのか、外宮で兵に出くわしても驚かれることはなくなった。

 しばらく歩いてシルバルド師団の入口までたどり着く。

 伯父と約束しているのでやや早めに出てきたが、まだその姿はない。待たせるのは気が引けるから、内心でホッとする。

 師団入口を抜けないと演習場に行けないので、そこに立っていると、他の団員たちも続々とやってくる。

 自分より上位の者に頭を下げていると、前からロルがやってきた。

 たった数日前まで気安く接していたけれど、尉官昇進してしまったからアレックスはロルの上官になってしまった。

「おはようございます、ローゼンタール少尉」

「おはよう、ロル」

 いくら親しくしていても、階級社会の騎士団内では公私の区別はつけなくてはならない。

 わかってはいても寂しい気持ちがする。それでも、その寂しさを胸の内にしまって、アレックスは笑った。

「いつか、追いついてみせます。先に行って腹出して寝てて下さい」

 ニッと笑ったロルにニヤリ、と皮肉な笑みを返して、アレックスは口を開いた。

「のんびりしてたらもっと先に行くから、急げよ?」

 清々しい笑顔を浮かべ、はい、と返事をして、ロルは演習場の方へと消えて行った。

 ロルの後ろ姿を見送っていると、遠くから馬の蹄鉄音が響いてくる。当初足並みは揃っているから重なっていたが、どうしても馬の体格差で音がずれてくる。

 石畳を噛むようにポクンポクンカツンカツンと音が近づいて着て、そちらに視線をやると、懐かしい色がチラチラと揺れている。

 アレックスがいるのがわかったのだろう。白靴下を履いた栗毛の馬に乗った伯父が手を上げた。白に臙脂の縁取りの隊服を着ている。

 引かれて走るのが嫌なのだろう、明らかに嫌々足並みを揃えているレグルスの様子が見えた。

「あいつ……」

 飼い主としての申し訳なさから目元を手で覆って、はぁ、と溜息をつく。

 元々偏屈なやつだから、本邸からここまで嫌々でも付いて来ただけマシなのかもしれない。

 徐行しながら近づいて来た伯父に駆け寄る。

「伯父上! 早朝にありがとうごいました」

 完全に停止した伯父は、並走させるために握っていたレグルスの手綱をアレックスに差し出しながら口を開く。

「久しいな! 色々聞いているが、とりあえずは尉官昇進おめでとう」

「ありがとうございます」

 手綱を受け取ったのに伯父と話しているのが気に入らないのだろう、レグルスがアレックスの髪を噛んで引っ張る。朝せっかくサラが綺麗に括ってくれたのに既にボサボサになってしまった。

「痛ッ……わかった、わかったから待て」

 不満を漏らすようにブルブルと鼻を鳴らして、前足が苛立たしげに石畳を蹴る。

「ははっ。レグルスを褒めてやれよ? 今朝、サムが厩から出せなくて難儀してな。アレックスの所に行くと説得したらようやく手綱と鞍を置かせた。走る間も疑ってたな、俺を」

 その様子が目に見えるようで、ああ、と喉元から漏れる。

「じゃあ、俺はもう行くから。またな」

「はい、伯父上また」

 手を上げてクレスティナ師団の方角へ走っていくそれを見送って、アレックスは再びレグルスの瞳を覗き込んだ。

「悪かったよ。仕方ないだろ、昇進するまで厩がなかったんだから」

 会えない不満を口にする恋人に言い訳をする男になったような気分で、アレックスはレグルスの鼻先を撫でた。


 ―――お前絶対中身人間だよね。

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