第4話 神戸駅


「観光客の人ってさ、大体最初は神戸駅で降りちゃうらしいよ」


 神戸駅に差し掛かる前のカーブに備えて減速する新快速に揺られながら、しらせちゃんはイチゴミルクのジュースに口を付けます。


「まあ、観光客の人は分からないでしょうね。居留地や中華街が、二つ隣の駅である三宮が最寄りなんて」


「ねー。神戸駅はなんていうか……繁華街のはずれ? というか、ギリギリ外? って感じ」


 確かに、神戸駅は周囲をビルに囲まれていますが、活気はさほど大きくはありません。観光客が降り立てば、本当にここが居留地や中華街のある神戸? ってなりそうです。


「実際、神戸駅に発着する特急列車は『はまかぜ』と『らくラクはりま』のみですし、商業施設のumieの最寄りとはいえ、少し歩きますからね」


 確かに、利便性上は三宮駅に大きく後れを取っている神戸駅ですが、乗り鉄的には看過できない重要な路線なのです。


「神戸駅は、本州の重要な幹線である東海道本線と山陽本線の起終点であるキロポストが設定されているんです」


「キロポスト? なにそれ」


「簡単に言ってしまえば、起点からの距離を表したものです。神戸駅は東京駅から続く東海道線の終点であり、同時に福岡県門司駅まで続く山陽本線の起点でもあるのです」


「なにそれすっご。東京から神戸を通って、福岡県まで線路が続いているってこと?」


「そう言うことになります。南側のホーム……えっと、姫路方面の新快速が停車する場所にキロポストがあるので、もし機会があれば見つけてみてください」


 新快速が神戸駅に停車します。反対側の窓には、朝夕のラッシュ時だけ使用される一番線の線路が見えます。


「なんか、不思議ね。この線路が、東京から福岡までずうっと続いているなんて」


 まるで、この線路の先を想像するかのように、しらせちゃんが遠い目をします。


 そんな様子に、かつての自分を重ねてしまいそうになり、ふと口元が緩んでしまいました。


「……この線路の先、見てみたくはありませんか?」


 わたしが言うと、しらせちゃんの瞳が興味津々と言った様子で丸くなります。


「み、見たい!」


「では、旅を続けましょう。といっても、始まってまだ40分ほどですが」


 乗客の乗り降りが済んで、新快速は再び加速を始めます。


「そういえば新快……速には、一体どのくらい乗ってる予定なの?」


 糸魚川と書かれた切符を眺めながら、しらせちゃんがわたしに問いかけます。


「もうあと20分程ですよ。わたしたちが下りるのは、三府の一に位して商業繁華の……大阪駅です」

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にわか乗り鉄ちひろちゃん! おっさん @nanaya777

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