酒呑と店
家を出て昨日と同じようなむせ返るような暑さに嫌気を覚える。
それでも、行きつけの居酒屋に足を運び始める。あの居酒屋で出してくれるものはいつだって、なんだって美味しい。それに比べたら、こんな暑さはなんていうことはない。
しばらく、店へ向かう道を歩いていた。いつも仕事を終え店に向かう時とは違う時間だからか、見慣れないヒトが多いように見える。
しばらくお酒を呑んでいたはずなのに不思議と"影"は見えなくなっている。いつもなら外で"影"が見えないことはないのだけど。
行きつけの居酒屋に向かう道すがら、コンビニに足を踏み入れる。
外でお酒を飲むときは、自分のためにも他人のためにも、ある程度対策しておく必要がある。私は迷わず肝臓に効く感じの小瓶に入ったドリンクを手に取る。
周りを見渡してみるが、やはり"影"は見当たらない。
もしかすると、ワタシだけが見える、という性質がなくなってしまったのかもしれない。
──"影"を見ることがなくなるかもしれない。"影"を見ることが日課になっていたワタシは少し寂しい感情を覚えていた。
レジに向かい、肝臓に効く感じの小瓶に入ったドリンクを置く。ふと、店員に目をやる。しばしばこのコンビニには来るが、見たことのない店員だった。
新しいバイトかな、と思いながら勘定を終える。店の外に出ると、肝臓に効く感じの小瓶に入ったドリンクを一気に飲み干し、店の前のゴミ箱に投げ入れる。
しばらく歩くと、行きつけの店が見えてきた。やはり"カゲ"は見えない。
店に着くと、いつものように暖簾をくぐり引き戸を開け、店内を見渡す。
──?大将がいない。
大将の代わりに別の男性がカウンターの中に立っていた。カウンターの中の男性に声をかけると返事が返ってきた。
「お、ハジメテ、コエをかけてくれたね。いつもキてくれてありがとう」
知らないヒトからの言葉に違和感を覚えながらも、ワタシはレイシュを頼み席に着いた。
相変わらず"カゲ"は見えない。だけど、細かいコトは今は考えないようにしよう。キョウもムセ返るようなアツイ日だ。カクベツのジカンに今は身をユダねよう。
酒呑の見る世界 マツムシ サトシ @madSupporter
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