第3話 神々の花畑
文芸部部室。
いつものごとく、出席者は部長の如月と平部員笹竹の二人きりだ。
「前から思ってたんだけどさ」
眼鏡をかけ長い黒髪を三つ編みにした、いかにも文芸少女といった風体の如月が、書きかけの原稿から目を離して顔を上げた。
「悪役令嬢モノの攻略対象って、ありえなくない?」
「何が?」
どこにでもいる系女子の平部員笹竹は、スマホから目を離さずに聞き返した。読んでいるのはいわゆるWeb小説だ。同じような設定だらけで、デジャヴを疑うような悪役令嬢モノも星の数ほど読んでいる。いや、さすがにそれはウソだ。
「だって乙女ゲームだよ。乙女のハートを掴まないような攻略対象じゃあ、ゲーム売れないじゃん。そんなゲームありえなくない?」
「んんー?」
「婚約者の悪役令嬢よりアホで、行動も考えなしで、悪役令嬢が邪魔になったからって、牢にぶち込んで輪姦させようとしたり、手回しができてなくて廃嫡される無能だったり」
「それをヒロインに自慢げに語ったり?」
笹竹がスマホから目を離して、如月をジッと見つめる。
「他にも、なんでもヒロインの言うことを鵜呑みにして女に暴力奮う騎士とか、高成績への嫉妬から悪役令嬢を亡き者にして一位になろうとする魔法士とか、いるわけだけど」
笹竹がニタリと笑う。
「一周回って、やりたくない? ダメンズ攻略はかどらない?」
「なん……だと?」
「ちなみに顔と体はイケメンです」
「おぅっふ」
「絵師も声優も最高レベルです」
「なんだよそのバカゲーやりたいわ」
「さもありなん」
おあとがよろしいようで。
笹竹はスマホに目を戻し、如月は原稿に戻った。
文芸部女子たちの麗らかな戯言 西のほうのモノ @itou_yuuko
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