小田原征伐 中編
第十七話 三増峠封鎖
甲斐を通り本領へ帰るまでの路としてこの峠道は最大の難所にして重要な要衝である。
徳川家康が選ぶ退路として最も近しいもの、かつて甲斐の虎と相模の獅子が戦いし最後の一戦。
《三増峠》
官兵衛の狙いはこの地の占領、要塞化。そして徳川軍の殲滅。
後藤又兵衛基次ほどの猛将が参じるに最もふさわしい戦場。
氏邦らのもとへ行く途中、家康は二度も糞便を漏らしそうになったことを世の人は誰も知らない。
そして北条氏規。彼らの軍勢もまた三増峠を目指し進軍していた。
「殿、ご覧下され。足柄峠も同じく無惨な姿に.....」
「追手が来るのはこれで幾度目か.....」
「よい。敵を多く釘付けできれば作戦は上上。さして心配すべきことなぞ、無い。」
「ハッ、して三増峠とはまた懐かしき地ですな。。」
「甲斐の虎の小田原侵略は神業の如く速く、強く、動じなかった。まさに風林火山そのものであった。もしあの場にわしこそが居れば、必ずやその首を仕留めた言うに..無念だったわ。」
「然らば余計に力も入るというもの。殿の心中しかとお察しいたしまする。」
「.....うむ。」
「じゃがな。ここからがさらに混沌を極める作戦なのだが、よく聞いて欲しい。」
「ハッ!」
氏直の狙いと、氏照の機転、氏邦の粘りに、氏規のしたたかさ。
小田原から数十里程ほど離れた地、三増峠。
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-三増峠封鎖開始-
「これほどの大規模かつ守りやすい地形、すべて余さず不落の要塞として徹底的に固めよ!」
「ハッ!!」
「又兵衛殿。精が出ますな!」
「おおこれはこれは母里殿。」
母里友信。彼は優秀な槍使いにして、後世、かの名槍日本号を受け取ったことで知られる名将。
黒田家中にて黒田二十四騎にして黒田八虎に数えられる。
「すでに要塞化された痕跡がありますが、なかなかに古いですな。これはもしや、、」
「いかにも。これはおそらく以前の武田対北条の戦にて使われたものでしょう。」
「甲斐の虎もこの峠道から逃げ延びたのか。そうも思うと感慨深い。」
「どこが感慨深いものか、早うお主も持ち場に付きなされ。」
「フハハハハ!後藤殿がそう申されるならばそれがしも従いましょうぞ。夜には戦勝の酒坏を交わせれば良いですな!」
「うむ。それまでに死ぬこと無ければ......」
そしてこの二人の猛将がまた新たな戦の渦の中心となるのである。
官兵衛の戦いの真髄が徐々に現れだす。
彼の持つ展望と戦略が明らかになろうとしていた。
同時にこの章は、前章に突如として現れた徳川家康の、これまでの過程とその後の過程を著す章でもある。
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