たのしいよ

架橋 椋香

たのしいよ

 ある休日のお昼に、鯛が来た。

 インターホンを押して、ドア越しに「いきなりすみません」と鯛が。来訪。邂逅。鯛語をしゃべるのかと思ったら、日本語だった。ガチャ。

 どちら様ですか。

「えっと202号室の阿佐山あさやま祐一ゆういちですけど、自転車、あの、妃田きさきださんの自転車が、僕のところに」

 なるほど、すみませんでした、間違えてしまったみたいです。


 スニーカーのカカトを踏んで外に出た。曇りっぽかった。阿佐山はやっぱり鯛であった。かなり大型の鯛。中型犬くらい。アパートの自転車停め場までの距離で、おずおず尋ねる「えっと、そのお姿は、いつからです?」

「オスガタというのは?」との阿佐山である。薄いところがぴちぴちしている。

「えっと、その、鯛……」

「タイ?」

「え貴方、いま、鯛になってますよ」

「え鯛ってサカナのですか」

「はい」

「え、え?えええええ?」

「えっ」

「えええええええええええええっとちょっとスマートフォンで僕の姿を」

「あ、え、あはい、こうですか」内カメラにしたスマホを見せて。

「ああああああああああああああああえ?え?鯛?鯛じゃん?!!は?鯛」鯛が口を必死にパクパクさせている映像と男性の発狂の音声が現実に重なっていて私も結構混乱する中、鯛ぐわあああああああぁぁぁぁ阿佐山、もうわああああああああああああああああともとサカナのまぶた無ごうゎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁき目をさらに飛び出させて胃いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ袋でも吐き出るかの勢いで号哭あああああああああああああしており、そう居るので何かを変えねば、水か?いや水はさっきまで無くとも平気だったし、と急いで先ず自転車を本来の位相に戻した。振り替えると号泣の根源はビジュアルの上でも男性のものになっており、阿佐山さん阿佐山さん阿佐山さん、これ、と先ほど同様内カメラスマホなるを成人男性に見せると阿佐山は「え、な、なおったんですか?!」

「よかったぁ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

たのしいよ 架橋 椋香 @mukunokinokaori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ