第40話 ぜ、全裸だと……
「ドニ」
「何も感じねえし、見えねえぞ」
名前を呼ぶだけで俺の言わんとしていることを理解し、返してくれるドニ。
彼の言葉とは裏腹に第六感の悪寒は止まらねえ。それどころか、更に強くなってきて背筋から汗が流れ落ちる。
「壁際に下がってくれ……俺が前に」
と言いつつ、パルヴィの矢筒に触れサイ・ウェポンを付与しておく。
自分は自分でポーションの瓶を開けつつ、反対の手で懐のナイフに触れた。
「
先ほど下ってきた壁に背を預けたドニが、自分を含め
パルヴィもパルヴィで静かに弓を構え、臨戦態勢だ。
三人で二ヶ月くらいパーティを組んできたからな、俺たちの連携は一言発するだけで理解し合えるほどになっている。
さあ来い。
ドニの目にも超能力による感覚にも引っかからないとすれば、答えは一つ。
前方の空気が揺らぎ、巨大な影がいくつも忽然と姿を現した。
予想通りだ!
サキュバスが転移魔法を使うことは知っていたからな。奴なのか他のモンスターなのかは分からんが、出て来た瞬間にヤル。
転移は不意を打つにこれ以上の技はないけど、転移した本人もどこにいるのか一瞬迷うのだ。
俺の場合は「見える範囲」に転移するから転移前に転移後の状況を頭の中で浮かべながら転移する。それでも、一瞬止まるからな。
「レッサーデーモンがいっぱい!」
「ここで力を蓄えていやがったんだな」
二人の呟きの通り、どんどん転移してきやがる。
レッサーデーモンが全部で10体くらいか?
だが、問題ねえ!
サイ・ウェポンを付与した投げナイフをずらっと宙に浮かべる。
その間にもパルヴィがヘッドショットで二体のレッサーデーモンを仕留めた。
ドガガガガガ!
残りは俺の投げナイフで殲滅。
力の暴走のエネルギーの回復が予想以上に早いことは懸念していた。根源地でエネルギーを吸収していたから、他では大してモンスターが進化しなかったんだな。
だがこの程度、今の俺たちの敵じゃねえ。転移で見せた隙の僅かな時間で殲滅するに十分だぜ。
クンと念動力の糸を引き、投げナイフを手元に引っ張る。
と同時にパルヴィの矢とドニの投げナイフにもサイ・ウェポンを付与した。
ついでにポーションをぐびっと飲み干す。
「ちょうどいい。ここで迎撃させてもらうか」
「これで終わりってわけじゃねえよなあ」
後ろに声をかけると、ドニがぼやく。
当然だ。レッサーデーモンは転移魔法を使えないはず。
これまでの戦闘の経験からそう確信している。裏でこいつらを転移させたのはサキュバスか、それとも別のモンスターか?
さあ、出てこい。
俺の思いに応じるかのように第六感が警笛を鳴らし始める。
「来る!」
叫ぶ。ドニがエンチャントウェポンの魔法を俺たちの武器全てに付与する。
エンチャントウェポンは武器の威力を増す魔法であるが、武器自体が壊れないように保護する効果もあるのだ。
予備はたんまりと持ってきているから尽きることはないと思うけど、念には念を。やれることは全てやることは肝要である。
今度の影は人型じゃあないな。
俺たちから見て前列に目を奪われるくらい美しい銀色の獣毛を備えた巨狼が二体。その後ろに直立した爬虫類……俺の知識によるとドラゴンってやつかもしれん。
緑色の硬そうな鱗に全身が覆われ、短い前肢にがっちりとした後脚。背には翼竜のような翼を備え、鰐を精悍にしたような頭といった姿をしていた。
これが四体。ドラゴンが全長7メートルくらいあるので、奴らの後ろを確認することはできないな。まだ後ろに何かいるかもしれない。
「あれは……フェンリルじゃねえか。後ろはランドドラゴン……かもな。噂にしか聞いたことがねえような伝説級のモンスターだぜ」
ドニの呟きで手を止める俺たちじゃあない。本人も既に杖を構えて次の手を準備しているようだしな。
後ろをチラ見している余裕があるのかって? 余裕があるんじゃないさ。既に完了しているからドニとパーティの位置を確認していただけさ。
「前!」
パルヴィの声が飛ぶ。
言われずとも、もちろん俺の狙いは後ろの硬そうなドラゴンだ。
相手が動き出す前に、最大限の力を込め、投げナイフを打ち出す!
弾丸のように高速回転した投げナイフがぐううんと向きを変える。
念動力の糸でドラゴンの頭にロックオン済みだからな! なので先ほど完了しているとうそぶいていたのだ。
ドガアアン。
っと。そうだった。エンチャントウェポンとサイ・ウェポンを重ねかけしたパルヴィの矢は当たると爆発する。
前方の犬二匹の頭が粉みじんになる。
時を同じくして、俺の投げナイフもドラゴン四体の頭を正確に貫き、地に沈めた。
ドラゴンの硬い鱗でも物理的な威力を回転と速度で極大化したナイフなら貫けるようだな。
ドオオン。地響きをあげて倒れ伏すドラゴンらから土煙があがる。手前の犬たちの方がより派手な消し飛び方をしているが……パルヴィも、慣れたもんだろ。
「あ、あ……あう」
慣れていなかったらしい。
膝が落ちそうになるパルヴィをそっと横から支え、立たせる。
だが、弛緩するにはまだ早い。第六感の警告はまだ継続中だからな。
煙が晴れたその場所に悠々と立つ人影。
これまで出て来た巨体を誇るモンスターからするとその大きさは拍子抜けでさえある。
が、ドラゴンやフェンリルとは比べものにならない存在感にビリビリとプレッシャーを感じた。
単独か。
立っていたのは冷たい目をした美女。身長は170センチに満たないほどで背中からコウモリの翼を生やし、額からぐるんと巻いた角が見える。
忘れもしない。こいつはサキュバス。
相も変わらず肉感的なボディを薄布一枚巻いただけの姿で悠然と佇んでいる。
魅了される前に先手必勝!
回収したナイフにサイ・ウェポンを込め、念動力の糸を奴の眉間にセットする。
高速回転し唸りをあげるナイフが、サキュバスの額へ――。
「な、なに……」
額どころか彼女の上方二メートルくらいのところをナイフが突き抜けてしまった。
『認識阻害でーす。いけぞえさーんは「見て」狙いをつけますがー。視覚情報がズレているのでーす』
『すみよん?』
俺の脳内から離れたと言っていたのに、助言をくれるすみよんに心の中で感謝を述べる。しかし、もう彼女の気配は脳内にない。
ならば転移でやってやる。サキュバスにはコアがあるが、俺もあの時の俺ではないのだ。
対するサキュバスは魔法でも使ってくるのかと思いきや、薄布に手をかけハラリと剥ぎ取り地面に捨てた。
ぜ、全裸……だと。
その瞬間、ピンク色のむんむんな何かが俺の中を這いずり回る。
ま、まずい……これを解除するには……。
震える指先でパルヴィの肩へ手を乗せるが、ダ、ダメだ。サキュバスに心が……。
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