第38話 モンスターの行き先
更に二週間が経過したが、街は落ちついたものだ。討伐隊の遠征も行われているけど、剛腕の時に比べ小規模だと聞く。
モンスターが急速に強くなっている拝啓があり、過酷な防衛が予想されていただけに街は束の間の休息を謳歌している。
普段より多くの人が商店を行きかい、他国から来た者も増えたそうだ。
補給物資は変わらず届いているし、団長という柱を失ったものの街の活力を差し引きすれば以前より強靭になった。
レッサーデーモンが出たことから再びモンスターの進化が活発になっていると懸念していたのだけど、拍子抜けだな。
いや、いいことなのだけど、不気味というか何というか。
俺たちにとってもこの状況は福音をもたらす。ポーションの供給が潤沢になったので、しこたま買い込むことができたのだ。
すみよん時計の残日数はまだ800日以上ある。
「もう少し修行をしている余裕はあるかな」
ポーション補給のために久方ぶりの自室のベッドで寝転がり、そううそぶく。
『ちゃんと見てますかー?』
『突然きたな。すみよん』
『いけぞえさーん。レッサーデーモンがいたからってすみよんの予想を否定していたじゃないですかー』
『そうなんだけど、街の様子をみるにまだ力の暴走のエネルギーは不足気味なのかと思って』
『お花畑脳ここに極まるですねー。すみよんとしてはレティシアの住む街くらいは無事であってほしいのですがー』
無事も無事じゃないかよ。
モンスターの強化が進むと街の防衛能力を凌ぐ。そこは俺も理解している。
だけど、少なくとも年単位でまだまだ平気だろ。守備戦力はこの機に増強されているし、激しい訓練を繰り返していると聞く。
団長が亡くなったことで、モンスターの脅威が凪の状態であっても彼らは手を緩めていない。むしろ、以前より危機感をもって事に当たろうとしている。
状況が激変しない限り、もう少し修行をしてからネザーデーモンに挑みたい。
ほら、まだ800日以上もタイムリミットまであるんだしさ。
え?
『残日数が480日まで減っているんだけど』
『今頃ですかー。ネザーデーモンからいけぞえさーんを助けたじゃないですかー。その時からですよー』
『マジかよ。一ヶ月以上経過しているってのに気が付いてなかった……』
『向こうもいけぞえさーんが来るまでただ待っているとでも思っているのですかー?』
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
モンスターと人間は不倶戴天の敵同士である。その差は捕食者と被捕食者のごとく埋まるものではない。
遭遇したら有無を言わさず戦いになるのは誰しもが知るところ。例外は力の差に起因する逃亡ならあるが。
それまあそうだよな。命あってこそはモンスターも人間も変わらない。
ネザーデーモンもサキュバスもレッサーデーモンより遥かに強い。奴らが街にすぐに襲い掛かってこないことは不自然だ。
来れない理由ならいくつか考えられる。遠すぎて感知できない。大怪我で動けない。などなど。
奴らは力の暴走のエネルギーに引き寄せられる、とスミヨンが言っていた。彼女の転移でどこに飛ばされていたとしても、力の暴走の根源に近いところまで移動するだろうな。俺も奴らといかにして会うのかは懸念してなかった。
すみよんの腕時計の導きのままに力の暴走の元まで行けば自然に会うことができるだろうってね。
なので、俺はネザーデーモンとサキュバスが心地よい力の暴走の傍から離れないと思っていた。
まとめると、俺はネザーデーモンとサキュバスは力の暴走の近くから動かないと予想していたってわけさ。
しかし――。
『ぬくぬくと過ごしているわけじゃなく、蓄えているのだとしたら……』
『どうしますか? すみよんといけぞえさんに残された日はそうありませんー』
『行こう。すみよん。俺を元いた場所に帰すのには365日分必要なのだよな?』
『そうですねー。ゼロでも力の暴走が破壊されていれば大丈夫でーす』
その「大丈夫」って言葉にゾッとした。
問うことはしない。いや、問いかけたら俺がくじけてしまいそうだ。
すみよんの示す「日数」の意味を。
何故すみよんがたった一人で力の暴走のエネルギーをせき止めているのか分からない。
彼女が抑えていなければ、とっくにこの世界はモンスターの天国になっていたことは想像に難くない。
人間社会の破滅と自分を天秤にかけて、自分を犠牲にするなんてこと俺にはできるだろうか?
できないな。曖昧な「人間社会」なんて理由じゃ俺は命をかけることはできん。
『すみよん。俺を選んでくれてありがとうな』
『気が触れましたか? すみよんはいけぞえさーんがどんな状態でも気にしませんー。破壊してくれさえすれば』
曖昧な言い方じゃ伝わらないか。
俺は世界のためには自分を犠牲にすることなんてできない。自分の命の方が余程大切だ。
だけど、友人二人の為ならば命を懸けたっていい。命をベットすることで、チャンスをもらえるのなら喜んで協力しようじゃないか。
他者のために命さえ惜しくない。
この点において俺とすみよんの思惑は合致する。だから、彼女は俺をここに呼んだんじゃないか?
きっと地球には俺以外にも超能力者はいたはず。俺が使えるのだから、俺以外に使える者はいないなんてことは有り得ないからな。
そう、すみよんは俺だから選んだんだ。
『すみよん。すぐに向かう。君も来てくれるか』
『すみよんはいます。いけぞえさーんが来るのですー。』
そうだったな。
向かおう。
コンコンと扉を叩く音が響く。
「ゾエさーん」
すぐにガチャリと扉が開き、ピンク髪の少女パルヴィが入室する。
一応、入っていいか確認してから入ってきてくれると嬉しい。
俺にだっていろいろあるんだよ。突然入られるとあれだろ? ほら、着替えとかでいやーんになるかもしれないじゃないか。
彼女は大きなバスケットを左腕に引っかけて、慣れた仕草でテーブルクロスをふわさとテーブルに被せた。
「サンドイッチか?」
「うんー。ゾエさんが何でもいいというから、困るよお」
「すまん。買ってきてもらって」
「いいんだよお。あたしの分もゾエさんが出してくれたし!」
と笑顔で言葉を返していたパルヴィの表情が曇る。
彼女は何のかんので雰囲気の変化に敏感だ。すみよんとの邂逅で決意を固めた俺の気持ちを察したのかもしれない。
顔に出てたかなあ……。
「行くんだね」
「うん。明日の朝、向かおうと思っている」
「あたしはいいけど、ドニさんにもちゃんと言わないと、酔っ払ってるよ?」
「やっぱり、二人とも行く……んだよな」
「当然! 今更置いて行くとか言ったら、ゾエさんにえっちなことされたーって言いまわってやるんだから」
「……そいつは連れていかないとな」
否定できないのが辛いところだ。ペロンとめくってしまった前科があるものな……。
苦笑しつつも、三人で最終決戦地に赴くことになったのだった。
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