第36話 修行パート
「そこの木の上だ。いるぞ」
「いるのは俺にも分かるけど」
「全長3メートルくらい。形からしてマーブルパンサーの……『血染め』ってとこかねえ」
「来ないなら、こっちから行く」
ナイフを宙に浮かせると、ドニが眉間に皺を寄せ渋い顔で舌打ちする。
待てってんだろ。
間もなく彼が魔法によってナイフの刃が淡く光る。エンチャントウェポンという武器の切れ味を高める魔法だ。
ドニの目線の方向を確認、良し。
念動力の糸を捻り、砲身として投げナイフを打ち出す。
高速で横回転した投げナイフが頭上の葉と葉の隙間を直進し、空気が弾けるパアアンという音が鳴る。
弾丸のように回転を加え打ち出すことによって、ナイフのスピードは以前に比べて三倍近くなり破壊力が格段に増した。
余りの速度に目で捉えることは出来ず、インパクトの瞬間にソニックブームが発生し物凄い音がなるってわけさ。
ドサっと半分ほど頭が吹き飛んだ白黒縞模様の豹が地面に落ちた。
「今日の肉にするか」
「余り美味しそうには見えないな」
ドニと冗談を言い合いつつも、剥ぎ取りナイフを抜く俺もこの世界に慣れてきたよな。
修行に出て早三週間が経過しようとしている。一度街に戻りはしたが、殆どの夜は野宿している生活だ。
野外活動の経験が殆どなかった俺であったが、今となってはどこでも眠ることができる。
こうして外に出てモンスターを狩りながら生活しているのは、もちろん修行のため。
兵団から俺たちのことを聞いたのだろうドニが、修行に出かけようとした時合流したんだ。
パルヴィとアヒルももちろんついて来ている。ひょっとしたらレティシアもご一緒するかもと思ったのだけど、すみよんが出て来ることはなかった。
ので、彼女は街の教会にいるはず。
「お前さんも随分染まってきたじゃねえか」
「ドニの言う通りだったよ。パルヴィは野宿に慣れてはいたけど、兵団として行動していたから物資の無いサバイバル経験はなかったから」
「ガハハハッ。しおらしいことを言うんじゃねえ。死ぬぞ」
「そう簡単にはくたばらないって。腕が飛んでもすぐ回復する俺だぜ」
喋りながらも二人でやっているから早い早い。もうマーブルパンサーの皮の剥ぎ取りが完了した。
今度は解体して、肉を分けるんだったよな。
「俺としても収穫はあった。魔法でも力でもない。面白えもんだな」
「上達が早すぎてビックリだよ。ちょっとへこむ」
「使えるようになってよく分かった。やはりお前さん、化け物だ」
「俺は生まれてから今までずっと超能力を使ってんだぜ」
以前約束していた超能力の手ほどきをドニとパルヴィに行ったんだ。
したら、僅か一週間ほどで二人とも超能力を使えるようになった。どうも、魔法かスキルを持っていると超能力が発現しやすいかもしれないというのがドニの談である。
ドニの場合は感覚を強化する方向で超能力が使えるようになった。
彼は元々「鋭敏知覚」という感覚を強化するスキルを持っていて、モンスターの気配を感知するのが早かったのはこのスキルと経験による。
しかし、先ほどマーブルパンサーを発見したのは確かに長年の勘とスキル起因なのだけど、超能力で姿を「見た」のだ。
「随分とハッキリ捉えていたよな」
「ん、唐突になんだ。ああ、マーブルパンサーのことか。体温? そんなもんがぼんやりとな。姿を捉えるには十分だぜ」
だから、片目をパチリとしておどけるのは似合わないって。悪人顔でそれをされると何か企んでいるように見えて怖いわ。
ええと、何を考えていたんだっけ。そうそう。ドニは元々持っていた能力を強化するように超能力が発現した。
確実ではないが、逆ザヤで俺の超能力も伸ばすことができるんじゃないかって考えたのだ。
『池まで出たよー』
『分かった。そっちに向かう』
頭の中に直接響く声。すみよんのものではない。
これはパルヴィが俺に超能力でコンタクトをとったものだ。
彼女には頭痛薬となるポーションを買い出しに行ってきてもらっていた。彼女なら後からでも合流できるから。
ドニとほぼ同時期にパルヴィも超能力を使えるようになった。
だけど、彼と異なり自分のこれまで鍛えてきた技能や持って生まれたスキルとは全く異なる超能力だったので、俺を悩ませている。
彼女の超能力は「テレパス」だった。超能力と言えばこれというくらい世間では有名なものだけど、実際に体験するのはもちろん初めてである。
今は亡き「共感」のスキルを持っていたエタンに発現したのだったら理解できるのだけど……パルヴィだものなあ。
「パルヴィが来たみたいだから、急ぎ肉を回収して動こうか」
「あいよ」
頭痛薬が補充できれば、超能力を使いたい放題だ。いつ何が襲ってくるか分からぬ危機感溢れる場所で、実戦を繰り返しつつ暇を見て修行も行う。
実戦に勝る経験はないと思っている。だけど、修行は修行で必要だ。実戦でまだ使えない練習もできるからな。
◇◇◇
パルヴィに夕飯を作ってもらっている間に、ドニの手ほどきを受けながらナイフを投げる。
念動力の糸ではなく、自分の手で。
パルヴィの例があるので確証は持てないけど、自分の技術を鍛えれば超能力にも影響を及ぼすのではないかと考えた結果、彼とパルヴィに交互に先生役になってもらうことにしたんだよ。
ドニからはナイフ格闘術と投擲を。パルヴィからは弓。
俺が練習時間を取れるようにご飯の準備は二人が交代でやってくれている。
ありがたくて何度お礼を言っても足りないくらいだが、当の二人は上級悪魔をやれるとしたら俺だけだから協力は惜しまないと口を揃えて言っていた。
スコンと子気味よい音がして、ナイフが木の幹に突き刺さる。
「お、
「だいぶ上達したんじゃねえか。そんで一つ気になってんだが」
「うん」
「お前さんの『糸』だったか? 使わねえのか?」
「自前の技術力をつけたくてさ」
「そうじゃなくってだな。投げるのはお前さんの手だ。ここまではいいか? 俺が魔法でやったように『糸』を使えねえのかってことだ」
ナイフを握っていれば念動力の糸を張り巡らせることはできるのだけど……。
手を離れると糸は急速に力を失い消えてしまう。
体のどこかと繋がっていれば糸は消えない。
いや……まてよ。
糸で何かを動かすことってのはつまるところ運動エネルギーなわけだろ。じゃあなんで糸の形になってんだ?
糸じゃなくてもよくない?
魔力による武器の強化はエンチャントウェポンだけじゃなく、パルヴィのファイアウェポンも見たし、エレメントチャージだったか、他にもドニがいくつか見せてくれた。
「経験」はしている。エネルギーを出すこともできる。
ドニとパルヴィの超能力が使えるようになるまでの経緯から「出来て当たり前、自然なことだ」と信じることが、超能力発現の第一歩なのだとも知った。
まずは糸でいい。糸を纏わせ、変化させることをイメージしろ。
糸はエネルギー、本来の形に戻す。元々形の無かったものを俺が糸にしているだけのこと。
「む、むむ」
糸が解除されただけだった……。
そうすぐにはうまく行かないか。修行あるのみ。
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