第34話 脱ぎますよー
「いけぞえさーん。おっぱい見過ぎです」
「え、ええ?」
問いかけようとしたところで、相変わらずの無表情ですみよんが爆弾を落としてきた。
素っ頓狂な声をあげたパルヴィは何を思ったのか、俺の顔とレティシアの胸を交互に見ている。
そっち、ぺったんこだぞ。
「見たいんですか? いえ、見てましたよね。生きるか死ぬかのところでー」
「……確かに見たけど……あれは事情があってだな」
「仕方ないですねー。いけぞえさーん、ちょっとだけですよ」
「ちょ、レティシアさんー!」
眉一つ動かさずにすみよんが自分の服をたくし上げた。唐突な下着姿に……白だな……いやそんなことじゃなくてだ。
パルヴィが俺とすみよんの間に立ってくれて隠れはしたが、こんな光景、レティシアが知ったら泣くぞ。
「すみよんはいいかもしれないけどレティシアはそうじゃないだろ」
「頑張っているいけぞえさーんにと思ったのですがー、嫌でした?」
「好き嫌いじゃなくて……とにかく、服を着てくれ」
「わかりましたー」
ふう、すみよんの服が元に戻った。パルヴィは何やら「小さい子がいいんだ……」とか謎の勘違いをしているし。
そういうことじゃないんだよ!
訂正しても泥沼にハマりそうだったので、ワザとらしい咳をしておっぱい問題から進めることに方針転換することを決めた。
「パルヴィの服を、そ、その脱がせたのは切実な理由があったからなんだ」
「うん。分かっているよ。おっきくてごめんね」
「……突っ込まないぞ、俺は突っ込まないぞ。理由というのは、女性型の上位悪魔がいただろ。あいつが俺に魅了? の攻撃をしてきたんだよ」
「うん?」
「あの悪魔が酷く魅力的に見え、フラフラと自然と体が奴の方へ動き始めたんだ。それでとっさにパルヴィの、え、ええと下着姿で断ち切ろうとしたんだ」
「そ、そうだったんだ。あたしでも大丈夫だったんだね。ちょっと嬉しいかも。恥ずかしかったけど」
下着ごとペロンといってしまったけどな。ほんとごめん。
心の中で再度パルヴィに謝罪する。
微妙な間に後ろ頭をかこうとした時、唐突にすみよんが口を挟む。
「魅了であってまーす。サキュバスは人間とそれに類する男に対し自分に引き寄せる魔法を使います」
「サキュバスと言うのか」
「そうでーす。いけぞえさーんのようにえっちな方法で魅了を解くなんてことができたことは驚きましたー。さすがでーす」
「褒められても嬉しくない……それよりすみよん、あの場でどんなことが起こっててすみよんが出て来る決意をしたのか聞かせてくれないか?」
にいいいっと口だけを思いっきり横にしたすみよんが、それではまだ足りないのか自分の指先で頬っぺたを引っ張る。
目元が少しも動いていないから不気味さを通り越して滑稽に見えた。レティシアのことを少しは考えてやれよ。
頬っぺたをつまんだ指を離し、ぽよんと頬が揺れた。そして、唐突にすみよんが語り始める。
「そうですねー。まず、あの場で何が起こっていたのか、そこからいきますかー」
「頼む」
力の暴走がモンスターの進化に多大な影響を与えていることは俺も知るところだ。
すみよんが進化の原因となるエネルギーの漏れ出しをある程度塞いでいるが、完全に堰き止めることが出来ているわけじゃない。
モンスターが経験を積む、更なる力を得たいという想いが強ければ強いほど進化の可能性があがる。
今回はゴブリンからホブゴブリンやゴブリンシャーマンに進化し、団員らを奇襲したことにより奴らは更なる「経験」を積んだ。
そのため、まだゴブリンだった者もホブゴブリンまで進化したことに加え、歴戦や名有にまでなった。
次に洞窟前での戦闘で生存本能を強く刺激され力を得たいと強く願う。逃走の最中、三体のゴブリンがトロールとグレムリンにまで進化した。
通常、ゴブリン種がトロールやグレムリンになることはあり得ないのだが、これが力の暴走が流すエネルギーの厄介なところなのだとすみよんは言う。
ともあれ、通常では有り得ない進化であっても力の暴走の影響下では起こり得る。
団員との激しい戦闘、特にトロールであったことが奴らに味方した。トロールは非常にタフで、斬られても斬られてもすぐに回復してしまう。
経験、強くありたいという願いの双方が蓄積されていき、一緒に危機を乗り越えたグレムリンも同様の状態となる。
「間に合ったんですー。奴らは。賭けをする頭脳まではありませんでしたが、結果『賭け』に勝ったのですー」
「賭け?」
「はい。死の間際こそ、最も生存本能を刺激し想いが極大化します。大概はそのまま死んでしまうのですが、悪魔族に進化しましたー」
「二段階、進化したな。あの短時間に」
「即死耐性を持つ人間とトロールの融合による進化、もう一方はいけぞえさーんに心臓の血管を潰されたことによる死の危機に対する進化ですー」
「一体は団長が潰してくれたが、あれも上位悪魔なのか?」
「そうです。あれもサキュバスと同程度の力を持ちます。ネザーデーモンほどではありませんが」
結果残ったのは団長とトロールの融合から進化したネザーデーモンと俺を魅了しようとしたサキュバスの二体。
王狼でも冒険者ギルドの討伐ランクにしたら上級で、レッサーデーモンでさえ最上級トリプルSのモンスターである(パルヴィ談)。
レッサーデーモンは悪魔族の中でも下級クラスで、対するサキュバスは上級クラス……。ネザーデーモンに至ってはそのサキュバスより強いというのだから、俺があの場でいかに無茶をしていたのか分かるってもんだ。
コアを何度も攻撃すれば仕留めることができそうなサキュバスはともかくとして、ネザーデーモンはどうすりゃ倒せるのか想像がつかない。
「それで俺たちを助けるためにすみよんが来てくれたのか」
「目的は二つありましたー。一つはいけぞえさーんにここで潰れられては困るからですー」
「すまんな。あの場は取り乱してしまって」
「気にしてませーん。上位悪魔族です。いけぞえさーんが混乱しても仕方ありませんー」
そこじゃないんだけどな。特に訂正するほどのものでもないので、そのまま話を続ける。
「それでもう一つとは」
「レティシアです。路頭に迷うとなかなか大変ですからー」
「……そういうことか。あの場で使った魔法は強制転移みたいなものか?」
「そうでーす。いけぞえさーんの転移とは異なり、魔法です。サキュバスも使っていたでしょうー」
「確かに。それで、サードの魔力も使い果たして気絶したというわけか」
すみよんは洞窟から俺たちを逃がすことだけを考えていたわけじゃなかった。
俺たちが逃げたとして、その後ネザーデーモンとサキュバスはどうする? 当然、洞窟の外に出てくる。
そうしたら、目の前に街の城壁があるわけだろ。街に甚大な被害がでる可能性が高い。
だから、転移を選んだのだ。すみよんがレティシアに戻ってまでやらなければならかなったことは、転移の魔法を使うこと。
頭の中に語りかけてくるだけじゃ魔法を使うことができないから。
「レティシアの体だけですと魔力が足りませんー。サードもちゃんと連れてきていることもちゃんと見てましたー」
「だいたい分かった。あの二体はここへ戻って来そうか?」
「いえー。より強い力に引き寄せられまーす」
「力の暴走の元へ、か」
「その通りでーす。決戦はそこでーす」
すみよんが手首につけているディスプレイを指さす。
そうか、奴らは最終目的地にいるのか。願ってもない。
く、くくく。昏い笑みを浮かべつつ、心の中で嗤う。
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