第19話 ノータッチ、プリーズ
街を出て1時間もたたないうちに洞窟に到着する。
街から近いな
近くの木の下に馬車を停車させ馬を繋いでいる変な紳士の動きなど気にせず、台車を引っ張って洞窟の入口に立つ俺たちである。
「台車を引っ張ったまま移動してもよさそうかな」
「様子を見ながらの方がいいよー。ここに置いておいて後から取りに戻るといいんじゃないかなー」
「分かった。そうしよう。ランタンだけ出しておいた方がいいよな」
「必要ないぜ。サボるつもりだから、これくらい手伝わせてくれ」
台車に括り付けたランタンに手をやるが、ドニが待ったをかけてきた。
リレーのバトンのような棒を握った彼が呪文を唱える。
「ナイトサイト」
俺とパルヴィ、ドニに光が降り注ぐ。
何も変わっていないように思えるが……はて。
「外にいるのと同じように見えるようになる。効果時間は3時間だ。最後は徐々に暗くなってくるから分かりやすいぜ」
「お、おお。魔法すげえ」
「お前さんの謎の力の方がよっぽどえげつない」
「そ、そうかな。ははは」
補助魔法って一口に言っても暗視効果があるものとかいろんな魔法があるんだな。
俺にも魔法を身に着けることができるだろうか? 武芸は今更どうにもならないかもしれないけど、魔法なら超能力との相性もよい気がする。
「転移の力のこと? あたしも修行したら使えるようになるのかなー?」
「どうだろう。やってみる?」
「うん!」
「ドニもどうだ? 可能性は低いと思うけど、やるだけやってみるってことで」
「秘術をあっさりと。いいのか?」
「俺以外にも使えるようになれば、俺にとっても嬉しい」
これは素直な気持ちだ。俺だけの特権として超能力を使うことができるってのも悪くはない。
お金を稼ぐに希少性ってのは重要な要素だからな。だけど、俺の目的は金儲けでも、名声を稼ぐことでもない。
梓と今井を救い出すことなのだ。
最終的にあの場所へ立てるのは俺一人。だから、仲間がどれほど強くなろうが、彼らを救い出せるわけじゃあないんだ。
しかし、超能力を使うことができる者が増えたとしたら、俺が想像もしなかった使い方や修行方法を編み出してくれるかもしれない。
ドニもパルヴィも戦闘経験が豊富だ。
彼らが超能力を使えるようになるかどうかは可能性が低いにしても、使えるようになった時に新たな手法を考案してくれる可能性は高い。
あわよくば俺も魔法を……すみよん風に言えばギブアンドテイクだな。うん。
「何をぼーっとしているのかね。そんなことでは日が暮れてしまうよ。はははは」
馬繋ぐの早いな。颯爽とねちっこい視線を送りつつ「アディオス」なんて言いそうな感じで気障に人差し指と中指をくっ付け横に振るドンカスターであった。
当たり前のようにパーティなんて概念など彼にはなく、一人集団から離れズンズン進んで行く。
「ランタンも持たずに。ドニ、あのおっさんにナイトサイト? だっけ」
「必要ねえ。格好と態度はあれだが、あいつは一応、ソロだってのにSランクの依頼まで受領できるんだぜ」
「一人で全部やれる実力があるのは分かったけど……真っ暗闇を進んで行くのはさすがに慢心し過ぎじゃないか?」
「逆だぜ。ソロだから、頼れるのは自分のみ。準備は怠らねえ。心配すんな。一緒に行動する限りはどんないけ好かねえ奴でもサポートする」
放っておいてもいいってことだな。
微妙に聞きたいこととドニの回答がズレていたことに首を捻るが、大丈夫なのならいいか。
そこへ右から顔を寄せたパルヴィが耳元で囁く。ち、近い。別にドンカスターに聞こえても構わないと思うのだけど。
「あの
「護符? 装備しているだけでナイトサイト……ええと暗視の効果があるってこと?」
「うん。もしかしたら装備にエンチャントしているかもだけど」
「そんなこともできるのか。俺も欲しいなそれ」
「ちょっとお高いよー。街に帰ったら案内するね」
「ありがとう」
「ゾエさん、たまにあたしと距離を取ろうとする。迷惑に思ってたり?」
「そんなことないって。気のせいだよ」
「そうかな」
「そうだって」
「分かった♪」
それだよそれ。距離が近いんだって。ほら、俺とドニの距離感を見てみろよ。
囁き合う時にわざわざ相手の体には触れないだろ。パルヴィなりの距離感なのだろうけど、ギョッとしてしまう。
ノータッチ、プリーズ。
「じゃれるのは構わんが、警戒は怠るなよ」
「問題ない。ドニは何か感じたか?」
俺の場合は何をしてようが、第六感が目覚まし時計のように頭に鳴り響くとでも言えばいいか。
自分から探りに行くアクティブな能力じゃなくて、受信したら知らせるパッシブな能力なんだよな。
逆に探ろうとしても探れるものじゃないのが辛いところではある。
「いや。ジャイアントラットがいるのはもう少し奥だな。この洞窟は結構広くてよ。手当たり次第に探すとなると骨だ」
「水場か何かがあれば、そこで待ち伏せするとかがよいかもしれないか」
「ご名答。ドンカスターも同じ考えみてえだな。あいつ。『ゾエを見守る』とか言って自分でジャイアントラットを狩って、狩ったら帰りそうだな」
「は、はは」
ジャイアントラットは多数生息しているみたいだし、特に問題はないだろ。余りに度が過ぎるようだったら、「俺のため」という名目を利用してドンカスターにお引き取り願うとしよう。
散歩感覚で進んできたけど、入口から差し込む光が完全に届かなくなり本来なら真っ暗闇となっている。
ドニのナイトサイトの魔法の効果で、外と変わらぬくらい視界は良好だ。岩肌のゴツゴツとした様子まで色を含み完全に見えている。
暗視スコープだと色は判別できないから、魔法ってのがいかにすごいのか思い知らされたぜ。
ますます魔法に対する憧憬が沸き上がる俺であった。
◇◇◇
ドンカスターの後を追うようにして進むこと30分ほど。
道も天井も狭くなったり広くなったりしたが、しゃがむほどでもなく横向きになって何とか体を通すような場所もなかった。
ぴちゃん、ぴちゃんと水が落ちる音がかすかに聞こえてきて、そろそろ目的地が近いことを知らせてくれる。
前を行くドンカスターはそろそろ水場に着いた頃だろうか。彼と俺たちの距離は20メートルほど。
「いるぜ」
「うん」
一番最初に気が付いたのはドニ。彼の発言で気配感知に集中した様子のパルヴィが二歩ほど遅れてジャイアントラットの気配を察知したようだった。
俺は、まだだな。ジャイアントラットがこちらに敵意を向けておらず、俺の身が傷つくような状況にもなっていない。なので、第六感が反応しないってわけだ。
補うためにどうすればいいのかも考えている。
集中が必要になるが……意識を体内に向け念動力の糸を自分を中心にして蜘蛛の巣のように地面へ張り巡らせていく。
後ろが1メートル、前が2メートル半……が今のところ限界か。
これを応用して戦闘中は自分の体に糸を巻きつかせ攻撃を逸らすことにも使える。
パルヴィが弓を構え、ドニも右手にダガー、左手にバトンを握りジャイアントラットを迎え撃つ準備に入った。
さあ、いよいよだ。
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