美しき魔王城は魔王の心の声とともに
魔王ソヴィアとともに、城を案内される私。
このお城にはなにか名前があるようだけど、あまりにも長すぎて覚えられなかったので、私は魔王城と呼ぶことにしよう。
それにしても、豪勢なお城だ。
魔王城のイメージは、暗くて陰鬱な雰囲気を想像するかもしれないけれど、全くもってそんなことはない。主は石壁であるので、白を基調とした中世の宮殿ほど明るいとは言わないが、照明とステンドグラスを通した窓からの光が、綿密に計算されているのか、幻想的な雰囲気を醸し出している。
勇者の剣戟によるものなのか、所々部屋が崩壊しかかっているところがあったが、それは魔法の天才である魔王さんが本調子に戻ったらなんとかするのだろう、きっと。
また、風景画や肖像画、それに彫刻などが品よく飾られていたりする。それはもちろん、魔王ソヴィアを表した絵画や彫刻が一番多かったが、他にも幼い女の子の絵画や、進軍前の魔王軍の様子、魔王城での日常を切り取ったものまで様々であった。
調度品はどれも趣向を凝らしたものが多く、木目調のシンプルなテーブルから、金で刺繍が入っているように見えるソファまであり、質素なものから華美なものまでその種類は多岐にわたる。
魔王への謁見室へも立ち入らせてもらったが、そこはもう……。
……私は語彙力の限界を迎えました。
正直に言わせて?
昨日の驚愕から一夜明けて、もう少し平常心で魔王城を楽しめるかと思ったけど、そんな次元を超えてたよ、これ。18歳が体験するには早すぎるんだよ。今まで3LDKの部屋に家族三人で暮らしていたのに、現在は3LDKの部屋全てを合わせたよりも大きい客間で寝泊まりしてるんだよ?
そりゃさあ、マリー・アントワネットみたいに皇帝と女王の娘で、生まれたときから生粋の貴族なら驚くこともなかったのかもしれないけどさ、私平民なのよ、平民。お父さんはサラリーマン、お母さんはパートとしてスーパーで働いてたんだよ? そんな両親の子供がいきなりこんなところに連れてこられたんだよ? 神様もきっと驚いているはずだよ。
そんな神様も驚くような自体の中、私がいつもどおりでいられるわけないじゃん!
これでも、出来る限りの平静は保ったつもりですよ?
ふぅ。一通り心のなかで文句をつけたところで、魔王ソヴィアが私に話しかけてきた。
「我が生涯最高傑作である、我が城はどうだ?」
生涯最高傑作か。魔王が今いくつか知らないけど、きっと長い年月生きてきた中での一番なんだろうな。そして、それを納得するだけのお城であった。
「正直、想像以上だったよ、魔王さん。ここまで美しい城を作るのには相当な時間が必要だったんじゃないかな」
「それはもちろんだ、ルシアよ。この城は人間が存在する遥か前、時期にして三千年前から千年以上かけて建てた城である。これに相当するものなど、我は一度も目にしたことなど無いわ」
千年もかけたら、美しく荘厳な建物が出来るよね、そりゃ。未完成のサグラダ・ファミリアだって建造に掛かっている時間は150年くらいなんだよ。それの六倍以上となると……こうなるよね。
……えっ? 魔王って今三千歳超えてる!? 死んだりしないのこの人? というか人間の祖先よりも年上かよ!
(ここだけの話、昨日、勇者が話した魔王の話をルシアは最初の三節ほどしか聞いておりません)
「それにしても、ソヴィアさんは何故ここまでのお城を建てようと思ったのですか?」
「我は死ぬことはない。魔力によって老化も遅々として進まない。その中で人生を謳歌する手段など片手で数えられよう。そのうちの一つがこのトーリアスト=デ=ミサノリアレ=ソヴィア城の建設だ。我とともに永遠に残る芸術を残してみたかった。それだけのことだ」
ソヴィアさんの口調はいつもと変わらなかった。しかし、言葉の端々に哀愁を漂わせていた。死を克服するというのは、死が必ず訪れる人間やその他動植物にとっては悲願なのかもしれない。しかし、実際三千年、いや、もっと昔から生きてきたこの魔王にとって、死が終着点となることは能わず、全ての経験が川を流れる水のように、過ぎ去っていくものなのだろう。
もしかしたら、勇者との戦いも、モノクロカラーの人生に色付けしたかったからなのかもしれない。ミアレさん以外にも勇者がいて、そのときも戦ったのかもしれない。
魔力が老化を防ぐ原因なら、その勇者との戦いで魔力を使い切ることは、理にかなっているのかもしれない。
不老不死を求めた秦の始皇帝が自身の望み半ばで亡くなったのは、神様から与えられた人生最大の幸運だったのかもしれない。
可能性でしか無い。私のただの妄想かもしれない。
でも、それは寂しくないかな……そうか。悪魔という存在は、きっとこの世の理の埒外に存在するのだろう。だからこそ、切り札として悪魔を召喚したんだ。
悪魔に勇者を倒す力がなければ、魔王は再び魔力を失い、その分だけ歳を取る。
悪魔に勇者を倒す力があれば、勇者は倒され、魔王は永遠の時間をともに過ごす相手ができる。
どちらに転んでも、魔王にとっては利益にしかならない。
現実は、偶然にも私が召喚されたことで有耶無耶になっているが、この場合も都合が良いと判断して、ソヴィアは自分の隣に居続けることのできるかもしれない私のことを夫人として娶ろうとしたのだろう。
私、柄にもなく真剣に考え込んでしまったな。いつもなら笑い飛ばすんだけどな。
とはいえ、私だってあと70年程生きられれば御の字と言えるだろう。魔王の側にいたってソヴィアさんの望みは叶えられない。
私は今日、魔王の望みがいかに大きく、得難いものであるかを理解した。
「知ってしまったからには、なんとかしてあげたいよな」
ソヴィアには聞こえないようにつぶやく。そして深呼吸をする。
体の中の空気を一新した後は、自分の頬をパチンと叩く。
「ルシア、どうしたのか?」
「ううん、なんでもないよ! それじゃあ次の場所いこっか」
先送りという名の、自分自身の特技であり最終奥義を再び発動させて、私は次に進むことにした。
勇者と魔王と私の三角関係~私は天使か悪魔か人間か~ 井村つかさ @imura7
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