《一日目》

朝一番の私はとっておきの悪魔になりました

 鳥の鳴き声が聴こえる。陽の光が目を閉じたままでも感じられる。

 そう、朝である。


「ぐっもーにんぐ!」


 朝一番に大声を上げるのは、異世界に召喚された湊るしあ張本人だ。


 と、その直後大きなあくびをするのも私湊るしあである。


 朝がいつも弱くて毎朝二度寝する私の苦肉の策が、この朝一番大声大作戦なのである。なおネーミングセ(以下略)


「ど、どうされましたかルシア様、大声を出されて具合でも悪いのでしょうか」


 唐突に扉の向こうから声をかけてきたのは、吸血鬼執事であるルノーさんである。


「あ……すみません、朝のモーニングルーティンというだけなので気にしないでください」


 そういえば、ここ他人の家、もとい他人の城だったわ。うっかりさんだこと。


「それにしても、今日からどうするかな」


 一人で過ごすには広大すぎる部屋にて、一人窓際でたそがれながら、勇者と魔王の件について考える。


 とりあえず、昨日は驚愕で塗りつぶされたキャンバスの上にさらに衝撃を塗り重ねたような時間を送ったので、深くは考えていなかったが、実際どうしたらいいんだろう?


 勇者は確か友達が全然いなくて寂しいみたいなニュアンスのことを寝る間際言ってたはずだし、少しずつ距離を縮めて親友もしくは彼女みたいなポジションについたらいいのかな? 魔王を倒さないように説得も出来るかもしれないし。あれ? そういえば昨日何かこれに関することを聞いた気がするけど、記憶にございません。多分……というか確実に寝てたなこれ。


 ま、私天使らしいし、また聞けばいいよね。

 どこからか、天使は寝ませんなんて声が聞こえてきそうです。私はこう返答します。


――個性だよ個性!!


 閑話休題。



 ただ、問題は魔王なんだよね。


 魔王は、私に第一夫人になるように言ってきたけど、もし夫人になったら勇者に完全敵対する合図になるよね。そしてこれは一番避けなければならない状態なのよね。


 さらに都合の悪いことに魔王自身は、欲がなくなるほどには、既に欲望を満たしてきているように思える。そんなところに私が入っていく隙間なんてそれこそ、夫人くらいしか無い。


 ここで問題、こういう状況をなんと言うでしょうか。

 正解は『堂々巡り』でした。


 ……調子乗りました、すみません。


 しばらくは、私を満足させてという言い分を聞いてくれるはずだから、まだ時間的な猶予はあるけども……。その期間が終わってからが問題なんだよなー。


 デートで満足してくれるはずもないし、きっと夜をともにするだけでも不十分なはずだ。勇者討伐に力を貸すなんてもってのほかだし……。うん! 後回しにしよう! 私の特技は物事の先送りと古事記にも書かれているくらいだしね。もっとも古事記を読んだことは無いんですけどね、えへ。


「今日は魔王に、この城とか治めている地域なんかを案内してもらおうかな。なんとなく興味あるし」


 スケジュールを決めてしまえば、後は簡単3ステップ。


 1:部屋を出る

 2:魔王に『お願い(はーと)』をする

 3:流れに身を任せる


――意思のある手帳があったら大喜びするほどの、完璧な予定だ!


 なお、手帳には意思はございませんし、ルシアは手帳など持っておりません。


「……なんでこんなにテンション高いんだろう。顔洗って朝ごはんでも食べに行こう」


 突如我に返った私は、朝のモーニングルーティンの2つ目以降を始めた。




「……ということで、今日はソヴィアさんにゆかりのある場所を案内してほしいな」


 時は、朝ごはんを食べた直後。私は魔王のそばまで駆け寄っていた。


 寝起きで少し乱れた茶色の髪の私が、手を後ろで組んで、少し前かがみになって、上目遣いで目をキラキラさせて、瞬きの回数も増やして、ゆったりとしたネグリジェの胸元は素肌が見えていて……必殺悩殺ポーズ!


――うん。これは小悪魔、いや、悪魔だね。


 きっと、私の友達がここにいたらこういったんだろうな。「るしあ、それはやりすぎだよ」ってね。


 もちろん、こんなことをするのは人生で初めてですよ? 私が嘘つくわけないじゃないですかやだー。担任の先生に雑用を頼まれたときに、隣の男子に一回上目遣いで『お願い(はーと)』をしたことがあるくらいですよ。もう全く、みなさん妄想が激しいんですから。


……後で生徒指導室に来なさいって聞こえた気がするけど、幻聴よね!? 私良い子ちゃんよ?


「ふむ良いだろう。我々について知ることは、双方に利益があろう。ここに住まうのも遠くない未来の話だしな。まずは城下町……と言いたいところだが、昨日の勇者襲来で街は閑散としている。今日は我が城の中と、『異界』と呼んでいるこの世界の次元上にはない、第二の街兼避難場所にでも案内してやろう」


「ありがとうございます、ソヴィアさん! 私、楽しみにしてますね」


 馬鹿げた妄想をしていることが、魔王に伝わってなくてよかったなとホッとしながら、私は、脳みそを通さない脊髄反射で返答していた。それもそのはず。


――よし、私のお願い3ステップは成功!


 キュー(自己規制ピー)の3分クッキングもびっくりするはず。ただし、用法用量はきちんとお守りください。


……はい、いつもどおり支離滅裂な思考発言をしておりました。


 ソヴィアさんすみません。魔王なのに軽くあしらっちゃって。


 とはいえ、魔王は全くもってこちらの脳内のお花畑は観測できてないようなので、意外とこの調子で過ごしていても問題ないのかもしれないなと思い始めた私でした。

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