チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【17】『お母さん PART2』【なずみのホラー便 第104弾】

なずみ智子

チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【17】『お母さん PART2』

【問題】


 小学3年生のD子ちゃんは、とっても我儘な女の子でした。

 D子ちゃんのお父さんは家の外に心も身体も向けているタイプで家庭にあまり関心がないため、お母さんが看護師のお仕事をしつつ、ほぼ一人でD子ちゃんに向き合っていましたが、D子ちゃんの我の強さならび自己中心性は、躾や教育の問題というよりも生来の性質のようでした。

 食べ物の好き嫌いはこれでもかというほどに多く、何か気に入らないことや欲しい物があると小学3年生にもなって手足をばたつかせて喚き散らし、勉強など自分のやりたくないことはどれほど怒られても真面目にやろうとしないD子ちゃんに、お母さんは我が子とはいえほとほと疲れ果てていました。

 しかし、夏休み明けにお母さんは変わってしまったのです。

 お米やお野菜、お魚が大嫌いなD子ちゃんのご飯は、菓子パンやスナック菓子、人工甘味料たっぷりのジュースになり、お代わりだってし放題です。

 D子ちゃんが前から欲しがっていたスマートフォンも、あっさり買ってくれました。

 そして、「やりたくないことはしなくていいの。夢や目標を定めて努力したり、社会のために働くなんて馬鹿らしいじゃない」ともお母さんは言いました。

 こうして……起きている間はスマートフォンばかり触り、傍らにはいつも菓子パンやスナック菓子を携え、勉強や運動なんて一切しなくてもいいという、我儘放題の日々を送るようになったD子ちゃんの身体はむくみ、みるみるうちに増量していきました。

 ほぼ昼夜逆転の生活となったD子ちゃんは、もう小学校にも通っていません。

 さて、なぜD子ちゃんの我儘が許されるようになったのでしょうか?



【質問と解答】


キクちゃん : ……今回はまたヘビーな問題文ですね。私はまだ子どもを持ったことがないので、子育ての難しさというのは実際に分からないんですが、やっぱりD子ちゃんみたいに生来の性質っていうのは大きいと思うんです。


チエコ先生 : そうね。躾や教育だけでは解決できないし、救うこともできない生来の性質というのは、やっぱりあるとは思うわ。それに……後半部のD子ちゃんがお母さんから受けているのは形を変えた虐待でしかないわね。


キクちゃん : そうですね。暴力を振るったり、言葉で追い詰めることだけが虐待じゃありませんもんね。このまま家に引きこもっているうちに身体だけが大人になったD子ちゃんが社会で生きていけるかと問われたら、返事に窮してしまいます。……けれども、前半部ではD子ちゃんのお母さんはそんなことにならないようD子ちゃんに向き合っていましたよね。それが急に、態度を180度変えてD子ちゃんの我儘を何でも許すようになったなんて……ほとほと疲れ果ててしまったお母さんは、もうD子ちゃんの好きにさせてあげよう、と匙を投げた……つまりは諦めてしまったんでしょうか?


チエコ先生 : NO。


キクちゃん : 諦めたんじゃないんですか? でも、今回の問題文ではそれ以外の理由なんて思いつかないなぁ、うーん、うーん……


チエコ先生 : キクちゃん、前半部と後半部でのお母さんについての情報や台詞を整理してみて。


キクちゃん : えーと、前半部ではお母さんは看護師の仕事をしているとあります。そして、後半部では「やりたくないことはしなくていいの。夢や目標を定めて努力したり、社会のために働くなんて馬鹿らしいじゃない」と言っています。……ん? D子ちゃんのお母さんは看護師さんなんですよね。私、看護師さんというのは大変な仕事だと思いますし、尊敬しています。お母さんは、一生懸命に勉強したり実習に行ったりして努力して看護師になるという夢を叶えて社会のために働いている人なのに、こんな台詞が口から出てくるのはおかしいですよ。「しかし、夏休み明けにお母さんは変わってしまったのです。」とありますけど、これって……本当に”お母さんそのもの”が変わっているというか……前半部と後半部のお母さんは全くの別人ですか?


チエコ先生 : YES。正解よ。ちなみに、問題文中に「D子ちゃんのお父さんは家の外に心も身体も向けているタイプで家庭にあまり関心がない」とあるから、お父さんには長年の愛人がいて、妻(D子ちゃんの産みのお母さん)を家から追い出した後、その愛人を後妻に添えたのよ。


キクちゃん : ……嫌悪感しかない話ですし、また同じことを繰り返しそうなお父さんですね。


チエコ先生 : 後妻さんにしたって、形式上はD子ちゃんのお母さんにはなったけど、自分がお腹を痛めて産んだ子じゃないし、壮絶に我儘で扱いづらい子でもあるし好きにさせておこう、この子が将来どうなろうが別に知ったことじゃないって感じなんでしょう。なんともやり切れない話ね……



(完)

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