第4話

「ふぅ.....」


気分転換に吸っていた葉巻を地面に落とし、もみ消す。


「〜〜♪」


コートのポケットに手を突っ込み、鼻歌を歌いながら、すっかり人気のなくなった街道をブラブラと歩く。


ふと気付くと向かい側から少年が歩いてきている。


まずい、鼻歌を聞かれたかと少しソワソワするが、見ると彼は重い足取りで目からは光が失せている、あの制服はキャラウェル学園だろう...まったくこの国のエリートがアレでは帝国の未来は明るいもんだな...と独りごちる。


おっと......少年に気を取られているうちに所定の場所を通り過ぎるところだった......


十字路の真ん中に刻まれている魔法陣の上に立ち、目を閉じ意識を集中させる。己の魔力と魔法陣からの力強い魔力の波動を同調させ、街道へと手をかざした所で、


「はぁ〜ブツブツ...」


大きなため息が聞こえ、ふと見ると少年と目が合った。少年は若干気まずそうな表情をしたのち目をそらすが、私の構築していた魔法が展開し、街灯の灯りを吸い込み始めた時にはキラキラした瞳でこちらを見つめてきた。


そう、私の職業は灯士であり、こうして街の明暗を管理しているのだ。


灯りの点灯、減灯、消灯の際に、魔法陣の力を借りて光魔法を使うのだが、その時の風景が幻想的でかなり人気の職業なのである。若い頃にはファンレターを貰う事も珍しい事ではなく、まぁ、妻もそれのお陰で出会えたものだ。


さっきまで暗い目をしていた彼も、目を輝かせて光を目で追っている。


これだからこの仕事はやめられないのである。


さて、もうすぐで担当の街道の光が集まり、仕事が終わるという所で少年に異変が起きた...


「うわぁぁぁぁあっ!」


怪訝そうな顔で路地裏の方へと近寄ったかと思えば悲鳴をあげて尻もちを着いたのだ。


私は急いで魔法陣との接続を切り、残しておいた光の1つと共に、少年の元へと急ぐ。


「どうしたね?なにかあったのか?」


「女っ!女の子がっ...」


少年は震える手で路地裏を指差し、何かを訴える。


薄暗い路地裏を光を操り、照らすがネズミ1匹も見当たらない。


「何もおらんではないか...」


「...ッ!...........?!」


「やれやれ、もう少し自分を強く持ちなさい...幻覚など情けない......」


声にならない様子で口元をパクパクさせるだけの少年に静かに喝を入れる。


大方学園の先輩に誘われ、なれない酒を飲んだのであろう...まったく嘆かわしいことだ。


「大丈夫か?いつまで尻もちをついている...さあ...」


座り込んだままの少年に手を差し伸べ、起こす。少年は立ち上がり、ペコリと頭を下げたが未だにチラチラと路地裏を見ている。


「やれやれ、そんなに怖かったのかい?多方精霊のイタズラだろうに...家まで光をつけてあげようか?」


と、言いつつ光をもう1つ生み出し、少年の近くにいるように命じた


「...いえ......結構です」


少年が路地裏から目を離し、手で光を掴むように握ったかと思えば、喪失感と共に光がかき消された。どうやら魔法の支配権を奪い、強引に消したようだ。


なるほど、このようなでもあのエリート学園の生徒のようだ...帝国から光魔法への適正を認められ、その上厳しい選出の中から選ばれたここ1区の担当となった私から簡単に光を奪ったことに驚きつつも納得した。


「そうかね、なら気をつけて帰るんだよ」


「はい、すいませんでした...では」


去り際にもう一度ペコッとお辞儀をして去っていった少年に案外礼儀正しい良い子ではないかと感じながら、別の担当地区へと足を進める。


さて、早く終わらせて、帰りを待っている妻と娘と寝よう。













ドシャッ.......






己の崩れゆく音と共にそれが最後に男が思ったことであった...



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



なんだったんだ...は...


僕はおじさんと別れたあとも考え続けた。アレは決して精霊とかそういった類のものでは無いというのは見ただけでそう感じる。もし仮に精霊だとしても、おじさんが見えていないのはどういうことなのだろうか...


精霊は神様がこの世界に来た際に着いたきた神様の世界の生き物で、基本的に魔力が高ければ高いほど鮮明に見え、この世界では8割りの人が見ることができる身近な存在のはずだ。帝国のど真ん中に近いここ1区の街道を任される灯士だ、魔力が低いはずもない...


...........ズッ.......


悩みながらも、門番へ学生証を提出し、すんなりと1区の大門を通り2区へと入る。


しかしあの灯士のおじさん、優しいのはいいが、僕のことを精霊を怖がってる子供って絶対思ってるだろうなぁ...


確かに僕は小さな頃から他の人より精霊にイタズラされやすく、色んなものを隠されたり、迷子にさせられたり、驚かされたり、ぶっちゃけ9歳になるまでは精霊のことが怖かったが、僕もあと2年で成人し、立派な大人の仲間入りとなる。もう飲みたい酒も吸いたい葉巻も決まっている。精霊なんぞ怖がっている暇なぞないのだ。


...ズズッ...ズッ.....


まあいい、もうすぐ僕の家だ。帰ってゆっくり寝て明日の朝には学園に行って、エレンに話して怖がらせてやろう...


衛兵のいない2区の門を通り過ぎ、三区に入り、あと少しで家の前であるというところで僕は足を止めた。


ズズズズッ...ピタッ


音も止まった。


そう、問題は後ろのなのである。


灯士のおじさんと話している間も、門番に出門の手続きをしてもらっている間も、僕がこうして現実逃避をしている間もずっと後ろに着いてきているのだ。


もう足もガックガクで、正直怖くて仕方がない。必死で現実逃避しながらどうしようか考えてはいたが、結論が出ないまま家の前まで来てしまった。


これまでの経験から察するにこれは確実に精霊ではない、ならば新手の魔物なのか?だかそれだとおじさんにも門番にも見えなかった説明がつかない...


そして、今の自分の装備は無。つまり手ぶらである。それもそうだろう、僕はまだ兵士でも冒険者でもないただの学生だ、あったとしても修練場の個人ロッカーに鍵をかけて保管してある。


以上のことから今の僕の状況を察するに...

















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神が輝くこの世界、僕は君と堕ちていく ユミナ @yamap_

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