第3話

「......んんっ..くぅっ...」


あれから何時間か経ったあと、大体のレポートの構成が出来たので、僕は背伸びをした。


気付くと窓から射す西日が眩しい。早く帰らないと、とはやる気持ちのまま机の上に広げた勉強道具を無造作にバックの中に詰め込み、学園の図書館を出た。


ここはキャラウェル戦士育成学園。この帝国で、一二を争う程のエリート校だ。


帝国では9歳から学園に所属することが出来る。学校によっては入学試験があったりなかったり様々だが、ここキャラウェルは一味違う。


帝都の中心部に広大な敷地面積をもち、学内にはさっき俺がいた図書館、修練場、実験場、競技場に、試射場など様々な設備が揃っており、考える限り最高の教育環境となっているらしい。


そして、制度も少し変わっており、多額の寄付金を払うことにより、5歳から入学することが出来るというのが最たるものだろう。一応その時に試験があるらしいが、基本貴族の子供しか入学しないのであってないようなものだろう。やはり世の中は金である。


その上、9歳になり所属資格を得たとしても剣術試験、学術試験、魔法試験、それぞれの得点を考慮してクラスが配属される。全ての得点が足りなければ?...言うまでもないだろう。


僕も詳細は知らないが、剣術の得点が優れていれば、デュラハンというクラスへ配属され、魔術が優れていればリッチ、学術が優れていればグリモアというクラス分けとなる。

さらにその全ての成績が優れていれば、ワイバーンというエリートクラスへと配属される。


僕は学術試験でろくな点を取れた気がしないのにいざ入学してみればワイバーンクラスの端っこに名前が乗っていて驚いた。当時は嬉しかったが今はついて行くのに精一杯で落第ギリギリでの学園生活だ。


そしてこの学園にはその敷地面積の3分の1を占める寮が存在する。大きく5つに別れておりそれぞれのクラスで分けられた、12歳までの寮ともうひとつはこ5歳から8歳までの初等部の生徒が入っている。

初等部の学生はそれはそれは良い待遇のようだが、クラス分けがされたあとの寮生活は地獄のような日々だったとだけ言っておこう....


生憎僕はもう14歳、あの地獄のような日々を脱却し、優雅で楽しい一人暮らしを......


「先輩ッ!何帰ろうとしてんですかっ!」


送るはずだったのだが......


「そうだそうだ!可愛い後輩を見殺しにして自分だけ楽な生活を送るなんでずるいぞっ!」


「残念だったな、僕はもうからは抜け出したんだよ!」


「「なっ.....」」


最大限に煽りを込めた表情でバカ2人、もといシェリアとドイルに皮肉をぶちまけた


「こんなに大変な日々を私達がおくってるのに....」


「先輩は俺らを見捨てて楽で楽しいぼっちぐらしに.....」


「ふっふっふっ、まあ僕も前までその暮らしをしていたからわからんでもない、ほら出店でなんか奢ってやるから外出許可取ってこい」


「「やった(よっしゃ)ぁー!!」」


地獄のような寮でも少しの間だけ抜け出せる方法が今のような先輩に連れ出してもらうことや、火急の用事等がある。こいつらはそれ目当てで僕が帰る時にいつもこうしてちょっかいをかけてくるのだ。


「ただしドイル、お前はお留守番な?」


「えぇっ!!そんなぁ!」


「アハハッ、バカドイル、そんなこと言うからじゃない」


「うるせーっ!お前だってこの間裏で都合のいい先輩がいるとか友達に自慢し....ムグッ....」


「言ってない!言ってないしっ!てかアンタどこまで聞いて.....」


ゴゴゴゴゴ....


「ほぉ〜?」


「「ハッ..ギギギギギ......」」


「お前ら...歯ァ食いしばれ...」 


「「ぎ(い)ゃぁぁぁぁぁあ......」」


広大な学園に仲の良い悲鳴がこだました


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「「ぐすん......」」


「ったく...アイスで機嫌治るとか子供かよ...」


結局連れてけ連れてけと泣き喚き、白い目で見られ始めたので仕方なく仲良くたんこぶと並んで出店のアイスクリームを食べ、仕方なく寮まで送り、家路に着く頃には夜も深ける頃だった


「はぁ......ホントなら今頃家で寝てるはずなのに...」


思わず大きなため息と悪態が漏れる。街の灯りを回収しているおじさんにジロっと見られるが、この時間帯だ。さして珍しくもないのか街灯に手をかざし、灯っている灯りをどんどん手の中に吸収していく。子供の頃から見慣れた景色だが、つい目をやってしまう。


そのうち、灯りのひとつがおじさんの手の中に吸い込まれていく際、路地裏を一瞬照らした。


普段なら何も気にしない日常の風景、しかし今日は違った...のだ。


僕は吸い寄せられるようにそこに向かってしまう。そこで出会ったナニカのせいで、この日が一生忘れることの出来ない日になるとは知らずに。

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