第18話★

「……御慈悲に感謝致します、調教師様」

「何だその目」


やばい、豚の恩人……け、獣?に、睨まれてる。逆鱗に触れたらどうしよう。在らん限りの知識を振り絞った。丁寧な言葉を使わなきゃ、姉さんの教えを守らなきゃ。

本能が言っている。この場に適応しなければキメラだろうがヒトだろうが死ぬ。目付きが悪いのは許してくれ、事実、感謝してるんだ。

この二週間で学んだだろう、プライドは全て捨てろ、俺。女の振りもやぶさかではない。やぶさかってどういう意味だろう。


「野良の方が気楽ならそうしてくれていい。契約しないでおけばいいだろ、好きにしろ」


ちょ待てふざけんな、俺を独りにするな。どう考えても今のは忠実な女剣士ムーブだったじゃん。ロリだけじゃ足りねえだろ、美女も入れておけって。

金も飯も体力もない状態で、柄の悪い獣の巣窟に置き去りにされてみろ。死ぬぞ。俺が。


「しかし……」

「ご主人様はやさしいでしゅよ」


プライドを捨ててでも助かりたい俺vsなんか強そうな豚に、ドリルツインテールのロリが乱入してきた。身長は小柄だが、不思議と大人びた雰囲気を纏っている。それなのに呂律が回ってない。酒でも飲まされたんだろうか。

色々突っ込みたい所はあったが、何より俺が気になったのは、


「……随分高待遇なヒト族だな」


服装とか肉付きだった。

俺がDV調教師に拾われる前、市場に出される準備期間。

奴隷処理される間に、同じヒト族やキメラは何人も見かけた。皆一様に身包みを剥がされていたのに。

このロリ……このロリ……!


綺麗なおべべを着てやがる……!口の周りに若干赤い汁が付着している。血?トマト?果汁?

俺も同じヒトみてえなものなのに、この扱いの差は何?


「ふみゅう……おんなじおんなのこのおともらち、うれひいのにぃ……」


ごめん、俺は女じゃない。

とは言えなかった。いい、別に良い。女に間違われてた方が好都合だ。この豚がロリコンじゃない限り、女というだけでワンチャンどころかツーチャンあるかも知れない。だって俺だったら、美人の女体に慕われたら嬉しい。

衣食住が当たり前にあった俺にとって、恋しいと思う日が来るなんて思わなかった。キメラってだけで、国を隔てたら奴隷まっしぐらなんて冗談じゃない。


どうしたらキメラの俺とこの豚が契約してくれるだろうか、いやその前に姉さんも助けないと。でもこのチャンスを逃したら俺は路地裏で悲しい結末を迎えかねない。

どうしたらいいのか頭は回らない、背中は冷や汗でびっしょりだ。

助けを請うように見上げると、豚ではなくロリが此方に近づいて来た。胸がでかい、目のやり場に困る。乳首溢れそう、やばい。

俺の心配をよそに、ロリは目の前に膝をついて、耳に口を近付けてきた。


「アンタの耳、ここでしょ。私もキメラだよ」


髪に埋もれている、狼族の血を紡いだ頭部の耳へ囁く声。感情のない平坦な冷たい声に、思わず顔が引き攣るのが分かった。

ロリの小さな口元から、長い長い舌と、俺よりずっと鋭い牙が露になる。

このロリも俺と同じキメラかよ。


「知ってる?キメラでも、服を着せてご飯を与えてもらえるんだよ」


何言ってんだ、コイツ。

思わずきょとんとしてしまった。俺の国ではそれが普通だよ。

コイツの一言で、俺の不安は確信に変わった。

キャロットが、俺を買い取った調教師が、特別DVだったわけじゃない。

獣族の間で、キメラやヒト族に対する扱いはこれが『普通』なんだ。


国を変えただけでここまで扱いに差があるとは思わなかった。こいつの言ってることが今ならよくわかる。

獣族の土地において、俺らキメラに人権は無い。まるでそれが当然のように行われている。


「……」

「私ね、服を着せられてもオナホ扱いされないのは初めて。私のご主人様、変わってるでしょ。感謝してるの」

「おな、ほ……」

「決して善獣ではないしヒト族を恨んでるけど、優秀な調教師よ。あいにく素寒貧だけどね」

「素寒貧は私のせいだな……」

「アナタも賢く生きなよ、同じキメラでしょ。どの獣に対してどう接するのが正解か否か、一瞬で見極めな」


メスのフリは概ね正解かもね。

最後に、声すら出さずに、唇だけが無音で囁く。

バレてる。背中に冷たい汗が伝う。それより、とんでもない単語が出てきた。オナホ?オナホって性具のことだろ。今までどんな扱い受けてきたんだ、このロリ。


豚は静かに俺たちを見下ろしていた。気味が悪いほど虚ろで無感情な目をしている。この豚は、ヒト族を恨んでるらしい。

今夜オークションに出される筈の姉さんは、ヒト族だ。

だが頼れるものがない今、少なくとも事情を話せるのはこの豚以外居ないことは、俺の足りない頭でも理解出来た。

俺だって出来ることなら賢く生きたい、華奢で従順なメスを演じるのが一番手っ取り早い。でも、でも。


助けてくれ、普通の生活に戻りたいだけだ。

そんな自己保身全てを呑み込んで、俺は口を開いた。


ここに来た最初の目的は、姉さん。やっぱりアンタなんだ。


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無能だとパーティを追放された調教師のオレが奴隷の巨乳ドラゴン娘を助けて契約しチート最強に。気付いてももう遅い 海水魚 @sui23kn

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