ウィザーズ・ガーディアン
風来狼
我ら、魔術師犯罪対策課!!
夜の星々と同等かそれ以上に輝くネオンの光。
立ち並ぶ高層ビルはまるで鉄のジャングルを彷彿させ、街そのものが不夜城と化している。
大通りには沢山の人々が行き来し、高架線には車の大名行列が出来ているのが見えた。
喧騒の大都会。
それをビルの屋上から一人の少女が見下ろしていた。
腰まで伸びた黒い髪を靡かせブレザーを来た少女の手には不釣り合いな太刀が握られている。
『あー……。テス、テス、テスト中ー』
耳に付けていたワイヤレスのマイクイヤホンから呑気な声が少女の周りから聞こえ、少女は眉を僅かに動かす。
『よぉし! 全員聞こえてるね! 聞こえてるなら返事しろ! ネットの海に晒すぞオラっ!!』
『聞こえてますわよ。ぎゃあぎゃあ騒がないでくださります?』
別の少女の声が聞こえ、それに続いて粗野な男の『こっちも配置についている』という声が聞こえてくる。
『おっけー! ”お嬢”と”ヤンキー”は確認っと! 猫と姫はー?』
『だれがヤンキーだ! ぶん殴るぞ!!』
『そういうところですわよ。お猿さん』
『ンだと!? もういっぺん言ってみやがれこの”かさ高女”!!』
『お!? 喧嘩!? 先に身内でやりあう!? やりなよ、やっちまえ!!』
『はい、”猫”確認。で、”姫”は?』
通信の先の騒がしいやり取りに少女はため息を吐くと『その姫というの止めてくれませんか?』と言う。
『えー、だって姫は姫っぽいじゃん?』
沈黙で抗議すると通信相手は『じゃあ最後に、殺子ちゃんいるぅ?』と訊ねた。
それから少しの間沈黙が流れ━━。
『殺す』
『あ、いるね。おっけーおっけー! じゃあ総員傾注!! 我らがボンクラ隊長のお言葉です!!』
『ボンクラ言うなボンクラって。俺はロートルだっての』
通信越しに聞こえる男の声に少女は僅かに固くなる。
この男に対しては様々な感情を持っており、自分でもどうしたいのかは良く分からない。
いや、もしかしたらどうもしたくないのかもしれない。
今の他人未満友人以下の関係が精神的に一番楽なのだろう。
『さて、既にブリーフィングで話した通り目標は極右系組織”翼賛会”。知っての通り独立掲げてあちこちで暴れているテロ組織だ。奴らの狙いは明日行われる日本暫定政府と米国の会談阻止。その為に米大使を襲撃するとのことだ』
『わっかんねーな……。”翼賛会”ってのは日本独立を目指しているんだろう? なんだって独立交渉の邪魔をするんだよ』
”ヤンキー”と呼ばれた男の質問に答えたのは”お嬢”だった。
『米国主導の独立は真の独立ではない。あの方々はそう考えているのですわ』
『まあ連中の言いたいことも分かる。米国庇護下の独立は本当に独立と言えるのか? そう思う日本人も多い。だが奴らの好きにさせるわけにはいかない。もし明日の会談で米大使が殺されてみろ。せっかく手に入れた日本自治区すら危うくなる。英国や露国も干渉してくるだろう』
約八十年前。
この国は本土決戦を経て大戦に敗北し、連合国による分割統治を受けることになった。
日本自治区と言うのは星暦2000年ころから建造が行われた東京湾上に浮かぶメガフロートシティのことであり、2025年の日本独立に先駆けて戦後初の日本人による統治が行われている都市だ。
日本人収容所と呼ぶ者もいるが自らの手で統治が出来る都市を得たことは日本人の自尊心を回復させるには充分であった。
『どっちにしろ一般市民を巻き込むようなテロリストを容認は出来ない。今夜中に敵を制圧し、テロを防ぐぞ。ちなみにこれはいわゆる隠密作戦だ。目立たず迅速に敵の拠点を叩く。敵には
それは人工的に生み出された魔法使いの総称。
1900年初頭に独人科学者が投薬による人間の潜在能力を開花させる技術を生み出し世界中で研究が行われるようになった。
戦後も研究は進み、第一世代・第二世代と
『
『そのための俺たち”魔術師犯罪対策課”だ。さて、作戦だが……。敵の拠点は二つにまで絞られている。一つは南西の開発地区。そっちには梶浦隆造、桐生院麗華が当たれ』
『あの、コードネーム……』
『もう一つは北東の商業区。そこにある四菱重工の倉庫だ。こっちには櫻崎芽亜、京極
『いや、だからコードネーム……』
『殺子は遊撃部隊として待機。宮坂友里恵は情報支援』
『コードネーム……。ああ、もう! わかりましたー! 精一杯支援するんでよろしくぅ!!』
『よし、じゃあ作戦開始だ。日が昇る前に全部終わらせるぞ!』
三者三様の返事がされると黒髪の少女は静かに深呼吸をする。
誰かと協力し合って戦うのは未だに慣れないがやるしかない。
太刀の柄に手を添えるとビルの端に移動し、そして小さく呟く。
「京極蛍、参ります」
その言葉と同時にビルから眠らぬ都に向かって飛び降りるのであった。
※※※
東京特区開発地区。
そこはもともとメガフロートの拡張予定地帯であったが予算の問題や拡張計画を担当していた暫定政府議員の汚職などがあり、工事中のまま放置されている場所である。
都市区からは壁で覆われて隔離されており、一般人はめったに立ち寄らない場所だ。
ここに居るのは都市区を追い出された浮浪者や何かから逃げている訳ありの人間たち。
特区で最も治安の悪い場所であることは間違いないだろう。
そんな開発区に不釣り合いな人物がいた。
銀の髪をワンサイドヘアにし、白いドレスのような服を着た少女。
その瞳は金色に輝き、開発区の建設用通路を一人で歩いている。
「はあ……。本当に最低ですわ」
少女はそうため息を吐くと立ち止まった。
相方を発表された時からこうなることは分かっていた。
あのバカ男、勝手に一人で突っ走っていってしまった。
こんな場所にか弱い乙女を一人で置いていくなんて男として論外だ。
「かといって芽亜さんは突拍子も無さ過ぎますし、蛍さんも時々何を考えているか分かりませんわ。まったく、この部隊には
ならば唯一の真人間として”魔術師犯罪対策課”を纏め上げなければ。
あの中年隊長もいまいち頼りないし、人を導けるのは桐生院家の生まれである自分だけ。
そう思いながら頷いていると遠くが騒がしいことに気が付いた。
何事かと近寄ってみるとひらけた場所で大柄の馬鹿が銃を持った大人たちに囲まれていた。
彼はツナギ姿で腕を組み、ボサボサの髪を掻いて面倒くさそうにしている。
「何をしていますの?」
「あ? みりゃわかるだろう。敵に囲まれてんだよ」
一人で先走って敵に囲まれてるとはやはり猿だ。
この猿は身長と筋肉に栄養が全て回って脳みそが足りていないらしい。
「テメエ、むかつくこと考えていただろう……」
「ええ、その通りですわ。隆造さんのこと脳足りんの大バカ者と思っていただけですわ」
そういうと男━━梶浦隆造は舌打ちし、それから大人たちの方を睨む。
「どうやらこっちはハズレだったみたいだぜ? 居るのは雑魚ばっかりだ」
「そのようですわね」
アタリは京極たちの方だ。
まあ、彼女たちは腕は確かなので何とかするだろう。
「お、お前たち!! 何者だ!! ここを知られたからには━━」
「生きて返さない、でしょう? まったく、貴方たち三下はいつも言うことが同じですわね」
「なんだと!?」と大人たちは激昂して此方に銃を向ける。
見たところ敵に
ならばさっさと制圧してしまうことにしよう。
「き、貴様ら
「あらそこの大男はともかく
銃声音が鳴り響いた。
足元に銃創が出来上がっており、拳銃を持っていた男が発砲したのだと分かった。
隆造が「野郎……!」と拳を構えたため彼を片手で制して口元に笑みを浮かべる。
「いいですわ。少し躾けて差し上げますわ」
一歩前に出ると敵は一斉に銃撃を行った。
多数の銃弾が迫り、あっという間に蜂の巣にされる。
そう敵は思っただろうが━━。
「な!?」
銃弾が全て空中で静止していた。
弾の一つを指で摘まむと投げ捨て右手を動かした方向に銃弾が一斉に移動する。
「磁力操作。それが
「こ、この餓鬼ぃ!!」
敵の一人が突っ込んできた。
彼我の戦力差を理解できない愚か者にため息を吐くと銃弾の一つを操作し放とうとする。
だがそれよりも早く背後から空気の塊が放たれ、突撃してきた敵が吹き飛んで壁に叩きつけられた。
「……隆造さん? 今、
「んなこと知るか。それよりさっさと仕留めるぞ」
風を纏った隆造が隣に立ち、ガントレットを装着した拳を構える。
すると敵は動揺し、一歩下がった。
「相も変わらず粗野な方。ですが同感ですわ。さっさと倒して、こんな場所おさらばしましょう!」
そう言うのと同時に風と掴んだ銃弾が敵に襲い掛かり、あっという間に敵は制圧されるのであった。
※※※
繁華街の大通りを一人の少女が走っていた。
赤い派手な髪に短いツインテール。
露出の高い服の上にジャケットを羽織った小柄の少女は器用に人と人の間をすり抜けながら前方を逃げる二人の男を追っている。
『メアちゃん! 敵、左の路地に入ったよ!!』
通信機からの連絡に「ん! 了解!!」と返すと男たちを追って路地に入る。
すると男の一人が振り返って拳銃を取り出すと銃撃してきたため近くのごみ箱を蹴り上げて銃弾を防いだ。
そしてそのまま壁を蹴って一気に迫ると銃撃してきた男の額に踵落としを叩き込む。
「うしゃ! 一人仕留めた!! お次って……いない!!」
もう一人はすでに路地を抜けて別の通りに出てしまっている。
慌てて追いかけるが人ごみの中に紛れられ見失ってしまう。
「ユーリー! 上から見える!?」
『バッチリ!! 欅通りを東に向かって移動中!! 湾港地区に向かってるっぽい!!』
「サッちゃん、撃てるー?」
「……殺す」
ああ、この殺すは無理だということだ。
だとするとこの人ごみの中追いかけなければいけないが……。
(えー……めんど……)
倉庫に蛍と共に突入したのはいいのだが敵の中に
とりあえず追いかける為に走り出すが既にテンションはだだ下がり中であり、人混みを抜けるのも億劫だ。
だからーー。
「飽きた! やめる!!」
『えぇー!? もうちょっと頑張ろうよ! ほら! いっち、にぃ! いっち、にぃ! 走れバカ!!』
「だって今から追いつくの大変だし、なにより楽しくない! というわけでジューロー、あとは頼んだ! メアちゃんは夜の街に繰り出すのだ!」
『いや、なにが''というわけ"だ。はぁ……まあ、いい。逃げたやつは俺がどうにかする。友里恵、鷹の
『合点!』
流石はジューローだ。
普段は頼りないがやるときはやる。
だからこうして堂々とサボれるのだ。
「さて、どこ行こっかなー」
そう言うと鼻歌を歌いながら櫻咲芽亜は繁華街の中に消えて行くのであった。
※※※
倉庫の中で二つの影が交差していた。
鋼の閃光が交わり、火花が何度も散る。
剣戟の音は閉鎖空間に反響し、まるでちょとした楽器演奏のようである。
先に動きを止めたのは旧陸軍の軍服を見に纏い、鉢巻をつけた大柄の男だ。
彼の右手には軍刀が、左手には拳銃が握られている。
それと相対していたのは太刀を構えた京極蛍であった。
動きを止めると静かに息を吐き、太刀の柄を強く握りなおす。
(手強い……)
敵は恐らく第二世代
そこらの雑魚とは比べ物にならないほど戦い慣れている。
「貴様、知っているぞ! その太刀の紋様、京極家の家紋だな!!」
「……そうですが?」
男は「情けなし!」と嘆くと左手の拳銃で銃撃してきた。
咄嗟に柱の裏に隠れると男はもう一度「情けなし!」と罵ってくる。
「帝をお守りする京極家が米国の狗に成り果てるとは何と情けない話か!!」
「帝をお守りするからこそ私はここにいます!」
「黙れぇ!」と男は銃撃してきた。
だが黙るつもりはない。
相手に腹を立てているのは此方も同じなのだから。
「貴方こそ救国を謳うのならば馬鹿な真似はやめて下さい! "それ"を飛ばしたらどうなるのか分かっているんですか!!」
男の背後にある多数のコンテナ。
その中に入っているのは爆弾を搭載した大量のドローンだ。
彼らは明日ドローンを飛ばし、米大使を標的とした無差別テロを行うつもりだ。
「全ては真なる祖国解放の為! 嘗て我が国はお国の為に国民全てが血を流した!! ならば今一度皇国を甦らせる為に大和民族は血を流さねばならぬのだ!!」
頭にきた。
アレは亡霊だ。
八十年前の戦争に囚われた過去の亡霊。
そんな奴に
ブレザーの上着を脱ぎ柱の影から敵の様子を伺う。
そして上着を投げると銃声音と共に上着に風穴が空いた。
(今だ……!!)
物陰から飛び出し、敵の懐に一気に飛び込む。
下段に構えていた太刀を斬り上げると敵は後ろに飛び退くが━━。
「逃がさない……!!」
刃に蒼い焔を宿し、太刀を振り下ろすと炎刃を放つ。
「ば、馬鹿!? こんなところで炎を……!?」
「…………あ」
炎刃はコンテナの表面を容易く溶断し、中のドローンに直撃する。
その光景を見るのと同時に脱兎の如く駆け出し、窓を突き破って外に飛び出した。
その直後、倉庫内で大爆発が生じ、倉庫は木っ端微塵に吹き飛ぶのであった。
※※※
東京自治区の湾港区で二人の男が睨み合っていた。
一人は先程芽亜が取り逃がした"翼賛会"のメンバーであり、震えながら拳銃を構えている。
それと相対しているのはダークブラウンの癖っ毛にジャケットとジーンズ姿の男だ。
腰には刀が提げられており、男━━坂田十郎は面倒くさそうに頭を掻く。
「なあ、やめにしないか? お前たちはもう終わりだ。さっさと諦めて投降したほうが楽だぞ?」
「だ、黙れ! 売国奴めっ!!」
敵が引き金に指を添えたのを見ると癖っ毛の男は目を細め、腰を落として刀の柄を掴んだ。
そして揺れる銃口から目を離さず、息を止めると━━動いた。
銃弾が銃口から放たれるのと同時に上体を僅かに逸らし回避する。
それと同時に踏み込みながら刀を鞘から高速で引き抜くと敵の拳銃を断ち切った。
「ひ、ひぃ!?」
敵が怯えて尻餅をつくと男は刀を鞘に仕舞い、「あぶねーあぶねー」と苦笑した。
「第二世代のロートルに無理させんなよ。銃弾って痛えんだぞ? 知ってたか?」
逃げようとした敵の足に自分の足を引っ掛けて転ばすとしゃがみ込む。
「で? どっから買ったんよ。あのドローン」
「な、なんのことだ? 俺は何も……」
「惚けんなって。最新型の軍用ドローン。そんなもんをお前たちが自前で調達出来るわきゃない。支援してる組織がいるんだろう? ソ連か? それとも人民共和国?」
「し、知らん。たとえ知っていたとしても言うものか!」
声を震わせながらも睨んでくる男にため息が出る。
「あのね、お前のためを思っていってんのよ? ウチのボスは拷問好きでねぇ。このままじゃアンタ、手足の指が全部削ぎ落とされるぜ?」
「じ、人権違反だ!!」
「テロリストに人権あると思う? で、どうすんだい? 洗いざらい喋るなら五体満足で裁判を受けられる。公正な裁きだし、安全な刑務所にも送ってやる。でも喋らないならお前が行くのは裁判所じゃなくて冷たい地下室だ」
そう脅すと男は暫く沈黙した後、「に、日本人だ」と口を開いた。
「爆弾もドローンもある日本人から譲られた。たぶんアイツも
「日本人……? 名前は? なんて名前だ?」
男は少し躊躇い「本当に身の安全を保障してくれるか?」と訊いてきたため頷く。
「……そいつは……御堂宗二と名乗っていた」
「御堂!? 御堂だと!?」
フラッシュバックする。
燃え盛る家屋。
ドス黒い血溜まり。
そして天を見上げて薄い笑みを浮かべる男。
「奴は今どこにいるっ!!」
「し、しらない! 俺も直接会ったことは無くて……。もしかしたらアイツなら、さく━━」
男が誰かの名を言おうとした瞬間、背後から猛烈な寒気を感じた。
咄嗟に横に飛び退くと何かが脇腹を掠めた。
鎖だ。
先端に刃のついたまるで血のように赤い鎖。
それは転んでいた男の胸を貫き、引き抜かれると闇の中に消えていく。
即座に身構え、次の攻撃に備えたが先ほどから感じていた圧が無くなり敵が去ったと判断すると冷や汗を拭う。
何者かは分からないが標的が此方で無くて良かった。
もし戦いになっていたら大分マズかっただろう。
「……口封じ、か」
事切れた男の方を見て舌打ちする。
此奴にはいろいろ聞きださなければいけなかったのだがこうなっては仕方がない。
(御堂……。お前、ここに来ているのか?)
だとしたらやることは一つだけだ。
ずっと待ち望んでいたことが起きた。
必ず見つけ出し、そして━━。
「……は?」
爆発した。
遠くの方。
轟音と共に出来上がるキノコ雲。
あっちは確か……倉庫の方で……。
「おい、どうなってる……」
通信を行うと友里恵の『はいはーい!! YuLyは全部見てました!!』という返事が返ってくる。
『姫が盛大にぶちかましました!!』
『わ、わざとじゃありません!! 事故です!! 不運な事故なんです!!』
『いやあ、ウチらいっつも何かぶっ壊してるけどこれは過去最大だねえ』
『というかアレ、
『でもテロは未然に防げましたけど!!』
『おい、なんか逆ギレしはじめたぞ?』
思わず頭を抱える。
遠くからサイレンの音も沢山聞こえてくる。
これ、始末書ですむのか……?
「とーにーかーく!! 作戦は終了だ!! お前ら帰ったら反省会だからな!!」
通信機から三者三様、面倒臭そうな返事が返ってくると大きなため息が出る。
そして胸ポケットを探り煙草を探すが禁煙していたことを思い出す。
「ったく、相変わらず問題児だらけだな”魔術師犯罪対策課”は」
そう言うと苦笑し、上司に連絡を入れると回収班を手配する。
そして帰還後、責任者としてたっぷりと絞られるのであった。
※※※
「━━以上が先日の報告となります」
夕日が差す会議室の中、二人の人物が居た。
一人は椅子に座り、机に肘をついた中年の男性。
彼は手に持った報告書に目を通しながら眉を顰めてている。
もう一人は眼鏡を掛けブロンドヘアーの米国人女性だ。
モデルのような体形に整った顔をしており、淡々と先日の四菱重工倉庫爆破事故改め”翼賛会”鎮圧作戦の報告を終える。
「もう少し穏便にできんのかね? 君たちが暴れた後の隠蔽工作も楽ではないのだよ? 今回のことも四菱に頭を下げて貯蔵燃料の引火事故ということにしてもらったのだからね?」
「申し訳御座いませんでした。ですが米大使の暗殺を防げたのは彼らの活躍があってこそです。倉庫一つでこの国の未来を守れたのならば安いと考えるべきでは?」
女がそう言うと男は不機嫌そうに鼻を鳴らし、別の書類を手に取った。
京極 蛍。
16才。
第三世代
名門京極家出身。高い
梶浦 隆造
18才。
第三世代
英領日本から米領日本に無断越境しようとしていたところを拘束。
桐生院 麗華
16才。
第三世代
四菱重工社長令嬢。部隊のスポンサーであり、同時に部隊員となる。非常に強力な能力を持ち、第四世代に近いと言われている。
櫻崎 芽亜
15才。
第三世代
米領日本出身。ストリートチルドレンとして生まれ、盗み等の前科多数。警察に逮捕されたのち部隊に引き取られる。
「━━そして最後がこいつか。坂田 十郎。33才。日系米人。第二世代
「メンバーは性格に難がありますが皆優れた素質を持っています。上手く扱えば非常に強力な戦力となるでしょう」
女がそういうと男は「そうで無くては困る」と書類を乱暴に机の上に投げ捨てた。
「来年の日本独立。それまでにあらゆる脅威から東京特区を━━暫定政府を守ってもらわなくては困る。御堂宗二が動いているならばなおさらだ。いいか? ベルリンの二の舞にはなるなよ」
「承知いたしました」
そう言うと女は一礼し会議室から出ていく。
男は女が出ていくと再び不機嫌そうに鼻を鳴らし「ジェーン・ドゥなどとふざけた女だ」と舌打ちする。
そしてすぐに電話の受話器を取ると誰かに電話を掛けた。
「ああ、先生。はい、上島です。ええ、こちらは問題なく。全ては順調に。そうですとも、必ずや成功させますとも。なにせ”
電話を切ると男は立ち上がり窓の外の光景を見る。
赤い夕陽に染まる自治区のビル街。
目を細め、笑みを浮かべるとこう呟くのであった。
「真なる独立。それは誰にも邪魔はさせないぞ」
ウィザーズ・ガーディアン 風来狼 @FuraiOkami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
猫は神の洲にまどろむ最新/丹寧
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます