第2話

 違和感が形を得たその日から、日常は歪なものへと変化していった。その瞬間は意識すればするほど、存在感を大きくしていった。それは、朝少し遅く起きてしまって、毎週見ているアニメを見られなかったときだったり、お気に入りのぬいぐるみにジュースをこぼしたりしてしまったときにやってくる。ああしまった、こうはなってほしくはなかったなあ、と思うたび、気がつくとそのことが起きる前に戻っているということが起きて、朝パッと起きてアニメを見られたり、ジュースがこぼれるよりも前にぬいぐるみを避けておくことができているのである。そんなことを繰り返すうち、幼心の中で、これは、時間がいるのではないかと思った。


 それが確信に変わったのは、親戚の家に遊びにいったときのことだった。当時の僕はいとこのシンタのことが大好きだった。叔父さんの家に行くと会えるシンタと遊ぶのが楽しみだった。僕は、彼が僕を抱き上げて走り回るのが好きだった。当時中学生だった彼の目線から見る世界は、僕のものよりもたいそう広く見えた。まるで空を飛んでいるかのように思えたものである。

 その日は、雨が降っていて、ジメジメとしている日だった。父が僕の部屋の窓を閉める音で目が覚めた。父は、今日はシンタに会えるぞ、と言った、それを聞いて、僕は舞い上がるほどだった。またいつものように遊んでもらえると思った。空を飛べるのだと思った。、あろうことか僕は、車の中で寝てしまった。

 父の声で目が覚めた。車の中で、陽は西へと沈むところだった。窓の外を見ると、我が家の壁が見えた。

「シンタくんはどうしたの?」

「おはよう、おまえは今までずっと寝ていたんだ。揺すっても起きないから、帰ってきた。シンタはリュウジと遊びたがっていたから、残念そうにしていたぞ。」

 僕はひどく落ち込んだ。同じ年の子たちより、ほんの少しだけことばを話せて、ものごとを考えられる僕にとって、シンタは数少ない友人だった。それでいて、幼年期の好奇心を満たしてくれる存在であった。そんな唯一無二の彼との、数少ない遊べる時間を失ったことは、僕にとって痛手であった。やってしまった、と思った。その直後。僕は、気がつくと、


 また、父の声で、目を覚ました。


 

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とおくへ行く時(仮題) タイソン @FB_taisonn

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