3-C 『わがままなうたへうたえとあなたこそが私に教えてくれたのだから』

 一曲目、『ラッシュ!!』。

 二曲目、『星の忘れ物』。

 ここまでは、歌奈の関わった曲。そして、二曲目が終わったとき、しんみりとした空気がメンバーに流れる。

「ええと、『星の忘れ物』でしたー!」

 かんせいがフロアを満たす。息の上がった歌奈が次の言葉を探している。が意を決してMCをつなぐ。

「――どうする? 私でもいい?」

「……うん!」

 スポットライトと共に、視線が集まる。

「二曲目が歌奈ちゃんの作詞だったんですけど、三曲目は私と、実は色んな人にサポートしてもらった、私にとって、初の作詞です」

『おおっ』と期待の声が上がる。

「でも、一番伝えたいメッセージは、私の一番得意な形で、歌奈ちゃんに送りたくて」

「えっ……」

 が視線を向けると、歌奈のじりにある光が大きくなった。そんなかのじよに、はふわりとほほむ。

「こんなに自分の気持ちを出したことがなくて、でも、こうやってさそってくれた歌奈ちゃんにはすごく感謝していて、――その気持ちを、以前からやっている『短歌』、『五七五七七』の詩にえて」

 興味を示した観客の声がんで、一呼吸置いた。

「『わがままな うたへうたえと あなたこそが 私に教えて くれたのだから』――。最後の曲、『うたへうたえ』。よろしくお願いします」

 ぽろぽろとなみだをこぼす歌奈をいつたん置き去りにして、うんの呼吸で、当初の予定とは異なるから始めた。


――わがままな うたへうたえと

さけぶあなたはキラキラしてて

分けてほしくて私もさけびたくて

歌いたくてこの歌を送るよ


 なみだをこらえる歌奈がギターで乗り、歌詞をみしめるあんのキーボードがい、ごうほう代わりのドラムをはるたたき、ふたりの背中をす。


――今なら、思い切り歌える。


 体までがるような、どこまでも飛んでいけそうなここいていてぐんぐんと前に進める、そんなフレーズ。

 照明がまぶしい。演奏前の真っ白なノイズの代わりに、歌奈といつしよさけぶ。あこがれの気持ちが、そんな照明の光にけていく。バスドラムの音と、自身のどうの区別がつかない。

 どれだけの仮歌詞をゴミ箱に捨てただろうか。はると飲んだかんコーヒーの香りが鼻を通る。

 ブラック派のあんは、その味に比べてずっとやさしく見守る人で、ぼうとうのMCの件もライブハウスのスタッフさんに取り次いでくれた。

 従姉いとこつかさには感謝しきれない。かのじよ自身の複雑な気持ちはあれど、の気持ちをんで作詞を手伝ってくれた。

 そして、歌奈は――。


――ありがとう これからも よろしくね

 全員で最後の音をいた。全力で、やかましくて、わがままな音。うれしそうで、ぼろぼろと泣きはらしていて、それにもつられる。

「……もー! ずるいよぉ……!!」

「ごめん、でも、ほんとに――」

――大好きだから。


***


 その日の日記に、バンドメンバーが寄せ書きをくれた。


『姉貴が当ててたペアチケット、ゆずってくれるってよ! はる

『↑現地のおみやげリサーチしといたから、メッセージ送るね あん

『みんなグルだったの?! おみやげあげるもんかー!! 歌奈』


 そのやりとりにくすくす笑いながら、静かに日記を閉じて、ぐっとさえた。


『見つめあい支えあっても足りないのうれしい気持ちでいっぱいだから 


―完―

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うたへうたえ うらひと @Urahito_Soluton

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