3-C' 『手を取って微笑みかけたあなたにも手を差し伸べて共に行きたい 』

「――出来た」

 そして、出来てしまった。は同時にその気持ちをきつけられた。どうしようもなくうわついて、こんなにもわがままな歌を、歌奈に歌わせようとしている。

「私も、ひどいことをするなあ」

 勝手につかさの気持ちも背負って、それでもなお、つかされた相手にきそうなこいごころいたのだから。

 そうして朝に出来た歌詞を、学校に持っていった。

「出来たよ、歌詞」

「おっ、本当!? 読ませて!」

「――うん」

 放課後の教室で、生徒たちがはらうのを待ってから歌奈に声をけた杏子と遥香共犯者たちには、相談に乗ってくれたお礼もねて、マカロンのわせをわたしておいた。

 わざと、大事なメッセージを一つ欠けさせておいたその歌詞は、ただのラブソングだ。それは、あんたちには存在だけ伝えておき、内容はお楽しみということにさせてもらった。

「――すっごいれい。いいね!これ」

「ありがとう」

「……ちょっとつかさせんぱいの言葉が混ざってるのがズルいけど」

 歌奈のじりなみだかぶ。

「『キラキラを分けてしい』ってところだって、私がどうしても入れたかったフレーズを入れてくれたとき、せんぱいが言ってたことだから」

 でも、と続ける。

っちが考えた言葉もいっぱいだから、すごくうれしい! 曲、書いてみるよ!」

―― わがままなうたへうたえとさけぶあなたは

   キラキラしてて 分けてほしくて

   私もさけびたくて

 勝手なあこがれと知っている。うまくいかないことさえかくしている。

 しかし、あんはる、そしてつかさあとししてくれたこの心臓は、もう止まることを忘れてしまった。

 そして、からは見えてなくても、歌奈は、歌詞の書かれたプリントをしっかりときかかえていた。

***

 むかえた、新曲おのライブ当日。準備を経て本格始動、とめいってはいるが、が慣れた段階で一度だけやっている。

「……よし! 行くよ!」

「おー!」

 元気よく声を出すメンバーたちは、地下のライブハウスへと下りていく。見知ったバンド仲間や、SNSで聞きつけてくれたファン。

 そうした、歌奈の交友関係がかなりの割合をめる人たちが、後から来てくれるそうだ。

 まずはライブハウスの店長やPAスタッフと、事前に送っておいたタイムスケジュールをかくにんし、リハーサルに入る。

 最後の新曲のリハーサル前、が声をける。

「ここ、私もMCもらっていい?」

「うん、いいよ! じゃあ――」

 リハーサルでも、このきんちようはまるで本番のようだ。きんちようおさえるために、フェイクを交えて作詞したときのエピソードを手短に話した。

「1,2,3――」

 速めのロックナンバー。シンセの音がけ、ドラムがギアを上げる。サビでは、もコーラスに加わる。ちゆうで歌う歌奈をちらりと見てから、自らも願うように歌う。

 リハーサルを終え、開場し、ひかえ席の近くのお客さんと話をする。きんちようのあまり半分くらい上の空で聞いていたのを、はるに笑いながらかれた。

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