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「じゃあ今日の練習はこれくらいにしよう!!みんなお疲れさまでした!こんな時間まで残ってくれてありがとう!」


演出担当はさすが演劇部というべきか、主要なキャストへの演技指導をきっちりこなして、その上に全員のやるべきこと、やっていることなどの把握まできっちりしている。


「ダンスチームどこまで進んだ?」

「今日から振付作り始めて同時進行で教え始めたんだけど、意外と運動部の子多いし覚えは思ったよりは早いかもー… だけどもう一曲あるから完全に楽観はできないかなー」


演出がダンスのリーダーと話しているのを横目に、彩羽は隣にいた夏希に話しかける。


「まじでさ、ダンス完成するか危なくない?あの男子たち放っておくとすぐ外行って遊びだすじゃん」

「んー、でも外で全力でドッジボールしてるくせに振付できたから帰ってこーいって呼んだら振りはきっちり覚えるから憎めない」


夏希の意見は否定できない。

まぁ振付を覚えてはいてもどこかぎこちないのは筋肉量が多い男子ゆえか。

これから1週間の間ダンス経験のある女子チームがみっちり教えればどうにか形にはなるだろう。


早速わちゃわちゃと荷物をまとめながら夜ご飯の店について話す集団を見ながら彩羽は呟く。


「疲れ果てて使い物にならないってわけでもないもんね、体力どこから湧き出してくるんだろ」




そのあとも廊下でダンスの振付づくりをしているとふらっと優吾が現れた。


うちの学祭では高3がオリジナル脚本の劇の中にダンスを入れることが恒例化しており、劇自体のストーリー性や完成度だけでなくダンスにクラス同士のぶつかり合いがある。


何といってもプロのライブ会場と見紛うばかりの豪華な舞台と照明、効果が自由に使え、最高の青春ができる舞台である。

中高一貫校であり、これまで5年間見てきた先輩方は、特に最優秀賞を獲ったクラスのステージはキラキラしていて、憧れを持つには十分だった。

トロフィーを抱えた、最高の笑顔がはじけたクラス写真は花の高校生活を華麗に締めくくるには十分すぎるように思えたし、後輩たちや同級生が客席の争奪を繰り広げて撮ってくれたであろうステージフォトは高校生の学校祭とは思えないような格好いいもので、過去の先輩方のインスタに上がっていた写真を見て憧れる人がたくさんいた。


だから高3で最優秀賞を獲るというのは海琉高校の生徒には一番の憧れであったし、学祭準備期間中にはちょっとしたぶつかり合いも多かった。

そんな真剣勝負の学校祭準備では他クラスの人との往来はほぼなく、用事があっても廊下で立ち話をする程度なのが一般的なのだが…。


「みんなお菓子食べない??」

「また優吾来たのー?食べたいありがと!!」

優吾は怪我をしているという理由で演劇には出ないらしく、やることもないと言ってずっとこのクラスに入り浸っている。

正直そんなことをする奴には見えないが、多くの生徒が他クラスの人を入らせない理由は演劇の内容の流出を避けるため。


優吾の所属はB組。B組の子はすごい厳戒態勢で、練習しているところの前を通るだけでも結構気を遣う。

よりによってB組か…めんどくさい事になんないといいんだけど。


嫌な予感は大体が的中する。

それが起きたのは、学祭の1週間前だった。

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