第4話
出店の列に並んで、買ったばかりのかき氷を、並んで食べる、わたしと沖くん。わたしは苺、沖くんはブルーハワイだ。
だけど今は、かき氷以上に、ユキちゃんと岡田くんの方が気になってる。
「岡田くん、可愛いくらい、素直に言ったらいいのに」
「ま、まあ、それについて弁護できないな。けど、あいつがなかなかそういうこと言えないのは、今にはじまったことじゃないだろ。それにやっぱり、はっきり可愛いって言うのは、それなりにハードルが高いと思う。好きなやつ相手なら、よけいにな」
岡田くんのフォローをする沖くん。こういうのは、同じ男の子同士の方が、気持ちがわかるのかもしれない。
だけどわたしだって、それでよしとはできないんだよ。
「でも岡田くん、ユキちゃんにず~っと片思いしてるけど、全然気づいてももらえないじゃない。それってやっぱり、はっきり言わないのが原因なんじゃないの?」
「それは……まあ、その通りだな」
「でしょ。それをなんとかするためにも、たとえ強引な手を使っても、まずは一言言わせないと」
わたしだって、岡田くんの気持ちが真剣だってことはわかってるし、そうでなかったら、わざわざ応援なんてしない。だからこそ、岡田くんにはなんとしても、その壁を破ってほしいんだよね。
すると沖くん、なんだか改まったように訪ねてきた。
「なあ。今さらだけど、特に意識してないやつからでも、やっぱり可愛いって言われると、嬉しいものなのか」
「へっ? そりゃ、もちろん嬉しいんじゃない? 涼子ちゃんがそう言ってたし、少女マンガでも、そういうシーン見たことあるもん」
それがダメだって言うなら、今回の計画が元々から狂っちゃうよ。
だけど沖くんの質問はまだ終わらない。
「そういう、他のやつの意見や、何かに書いてあったんじゃなくて、芹沢自身はどうなんだ。芹沢も、直接言われたら、やっぱり嬉しいと思うか?」
「えっ? う~ん、どうだろう」
言われてみれば、わたしって涼子ちゃんの話やマンガを参考にしただけで、自分が言われた時のイメージなんてしたことなかったかも。これは、恋のキューピッドとして致命的じゃないかな。
とはいっても、もちろんわたしにはそんな経験なんてないわけで、確実にそうだ、なんてことは言えそうにない。
それでも、目一杯想像して答えることにする。
「えっとね。この浴衣、どういうのがいいかなって、色々選んで決めたんだ。生地だけじゃなくて、帯はどんなの合わせたらいいかなとか、他にも、サンダルとか小物とかもそう。全部買うとお金かかりすぎるから、あきらめたものもあるんだけどね」
「うん──」
そこまで言ったところで、その場で一回転して、全身のコーディネートを見せる。
なんだか話が少しズレちゃったかなとも思ったけど、沖くんは、口を挟むことなく聞いてくれた。
「普段はともかく、オシャレしようって思う時って、たくさん考えて、決めてるんだよ。だから、それを褒められるのは、やっぱり嬉しいと思うし、急にそんなこと言われたら、ドキッとするかも。……こんな答えじゃ、ダメかな?」
「いや、すごく参考になった。ありがとな」
よかった。どうやら沖くんにとって、納得のいく答えだったみたい。
「でも、どうして急にそんなこと聞いたの? もしかして、沖くんにも好きな人がいるとか?」
「それはまた、今度話すよ」
おぉっ、なんだか意味深な答え。思えば沖くんからは、そういう恋の話は一切聞いたことがなかったけど、これは、もしかしたらもしかするかも。
思わぬところで出てきた恋の予感に、興奮して一気にかき氷を口の中にかけ込む。だけどそのとたん、頭がキーンと痛くなった。
「いたたた……」
「大丈夫か? 冷たいものを一気に食べる時は気をつけろよ」
うぅ、失敗失敗。それはそうと、沖くんの恋バナ、もう少し突っ込んで聞いてみてもいいかな? それとも、今はそっとしておくべき?
だけどそんなわたしの考えは、思わぬ形で中断されることになる。
全く別の声が、わたし達の間に割って入ってきたからだ。
「あっ──悠生、芹沢! お前達、要のこと見なかったか?」
揃って声のした方を見ると、そこにいたのは、さっき別れたばかりの岡田くん。そして、その近くにユキちゃんの姿はなかった。
「見てないけど、いったいどうしたの?」
「はぐれた!」
「えぇっ!?」
「人混みの中でちょっと目を離して、気がついたらいなくなってた」
なにやってるの! あれからそんなに時間経ってないし、どうしたらこの短い間にはぐれることができるんだろう。
沖くんもこれには呆れたみたいで、なんのフォローもできないまま目を丸くしている。
「勝正、お前……」
「そんな目で見るな! 俺がダメダメだってことくらい、自分が一番よくわかってる。ああ、わかってるんだよ……」
うん、ダメダメだ。本当ならせっかくのチャンスだってのに、その全部を台無しにしている気がする。
だけど、それを口にするのはやめておいた。岡田くんも、これにはさすがにショックが大きいみたいで、これ以上責めたりしたら、今にも膝をついて崩れ落ちそうだったから。
「けどまあ、すぐに見つければいいんだし、そこまで心配しなくてもいいんじゃないのか」
ここでようやく、沖くんが慰めるように言うけれど、それでも岡田くんは不安げだ。
「そりゃそうだけど、何があるかわからないだろ。ほら、前に芹沢が言ってたみたいに、ナンパされることだってあるかもしれないじゃないか」
ナンパ。それは、この夏祭りのキューピッド作戦について話し合った時、わたしが言い出したシチュエーションだ。
「確かに。ユキちゃん可愛いし、一人でいるなら、よけいに声をかけやすいかも」
「だろ。ああ、くそっ! それなのに、なんで目を離したんだよ! こうしちゃいられない。急いで探さないと」
岡田くんはそう言うと、わたし達をおいたまま、また探しに行こうとする。
だけどそれを沖くんが止めた。
「ちょっと待った。探すのはいいけど、その前にできることがあるんじゃないか?」
「できること? そんなの、何があるんだよ?」
「スマホ、持ってるだろ。どこにいるかなんて、それで連絡とればすぐにわかるじゃないか」
「あっ……」
その手があった。岡田くんはもちろん、わたしもすっかり忘れてたよ。
岡田くん、早速ユキちゃんに連絡して、今どこにいるのか確認している。するとその間に、沖くんがわたしに聞いてきた。
「このまま勝正が要のところにいくのはいいとして、俺達はどうする? また二人きりにするために、勝正一人で行かせるか?」
「うーん、とりあえず近くまでついていって、様子を見た方がいいかも」
なにしろ岡田くん、これまで失敗ばかり。さっきは二人きりにさせるっていう強行手段に出たけど、もしかすると逆効果になっちゃったかも。
と言うか、この『夏祭りのキューピッド作戦』、もううまくいく気がしなくなってきたかも。
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