第14話

この発言に、衝撃を受けないのは当事者以外居ないだろう。

山寺も強い衝撃を受け、過去こんな風な発売方法をした奴はいないだろうと、驚き、早速書店へと向かった。

混雑を知らない書店さえも、人気アトラクションの列を模倣するかのように人が並んでいた。

書店側もここまでに列の対応は未経験らしいが、それなりの対応をとっていた。

赤羽に興味のない客は自由に店内を行き来できるが、1秒でも早く読みたい客は、12:00までは壁と並行に並べられた、ポールロープの範囲内で12:00が来るのを待っている。

この列に並ばないと買えないようになっている。

現時刻は、11:25。

35分後の、発売解禁までスマホと負けの決まったにらめっこだ。

笑わせてくる事はあっても、笑う事は決して無い。

次作の内容や、思いついた言葉をメモしていったり、漫画アプリで更新された続きを読み漁る。

スマホを手にしてから、待ち時間が短いように感じる事が度々ある。

あと5分の所でスマホをポケットにしまい、腕組しながら空を見上げたり、靴の汚れを気にしたりソワソワしている自分がいる。


列が進み出し、ようやく山寺の出番になった。

赤羽の本を手にし、どんな事が書いてあるんだろうと、対峙しないことを良い事に圧倒的に見下す。

6畳一間の部屋に帰り、コーヒーを淹れて、ゆっくりと表紙をめくり、赤羽の書いた世界のドアを開いた。

コーヒーを啜りながら、次々ページをめくっていく。

どれだけの時間が経ったのだろう。


山寺は、狭い空間にふさわしくない声でこう言った。

「パクられた。」

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モグラ ぽつねんの竜 @tara3po

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