第12話 デートプランを決めるのは彼氏の務め
週末の駅前はよくにぎわう。
そんな常識を今身にしみて感じている。
何かの待ち合わせに使っている人、友達としゃべっている人、週末でも仕事に追われている人。多種多様な人が大量の熱気を放っている。
そんな俺も待ち合わせだ。
もちろん相手は-
「おまたせ。待った?」
「いや、全然」
ベタベタな会話をしながら現れたのは香菜だ。
今日も周りの目線をバッチリ集めている。
今日の服装は白のワンピースにジージャンを羽織っているというラフなコーデ。でも着る人が着ればとてもきれいだ。それどころかラフさがこちらに気を許しているのかと勝手に考えさせられてしまう。
「似合ってるね」
とりあえず無難に服についての感想を述べておく。
「ありがと」
特に照れた様子もなく返された。
予期していたのか、それとも新鮮味がなくなってきたのか。どちらにせよこの関係になれてきたんだと感じさせられる。
周りがひそひそ俺らについてはなしているのがわかる。多分「似合ってない二人だ」とかそんなもんだろう。
俺は事実だし特に気にしないが、相手がそうだとはわからない。
「じゃあ、いきますか」
「そうね」
だから声をかけながら俺は歩き始める。香菜もとなりを歩く。
こうして俺たちの週末デートが始まった。
◇
「デートがしたい?」
「そうよ」
時は遡り俺と香菜の下校中の出来事。
初めてのことだったためそれなりに緊張するかと思っていたが俺は案外図太いらしい。
香菜と二人でいるという時間になれつつあった。向こうも程度すら違えどなれてきただろう。
少なくとも周囲に偽の恋人と思っている人はそうそういないと思わせるくらいの関係を築いているはずだ。
だからデートすることに疑問を覚えた。
「第一これもデートみたいなもんだろう?」
デートの定義とは、男女が日時を定めて会うこと。一緒に下校することも当てはまっているだろう。
世の中には、「下校デート」という言葉があるくらいだ。あながち間違いではないだろう。
「それはなんかちがくない?」
「どうして?」
「デートはなんかこう雰囲気があるじゃない。それなりの」
「いいたいことはわかるけど…」
「どちらかといえば友達同士って感じじゃない?」
香菜がいっていることは正しい。
確かに今の状態は友達の間柄だ。
「でもデートしたら恋人っぽく見えるようになるか?」
「今よりはましでしょ」
なるほど香菜は強い人らしい。
そうやって今の自分の至らないところを変えていける生き方にうらやましさすら感じる。
「…それに「デートしないの?」って友達に聞かれたとこだし」
「それじゃん。理由」
選択肢なんて元々なかったわけだ。
俺はため息を一つつく。
仕方ないか。
「…わかった」
俺は渋々了承する。
こちらに確認されただけましと思うしかない。
そう開き直った俺は香菜に質問していく。
「それでいつすんの?」
「今週の日曜」
「ずいぶん急なことで」
「こういうのは鮮度が大事なの。空いてる?」
「…一応夜までなら」
「そう」
週末はいつもバイトだが夜から店を開けるため、夜までは予定がない。そして俺の睡眠時間が消えた。…つらい。
こうなりそうだったからデートはしたくなかったのだ。でも決まってしまった物はしょうがない。
こちらが苦悩している間に香菜は話を進めていく。
「時間は九時開始とかでいい?」
「はやいね」
「そうでもないわよ」
香菜はこともなさげに言う。
俺の感性が死んでるからかわからないが、休日の九時は早いように感じる。
「場所はそっちで決めてね」
「…ん?」
「当たり前でしょ。彼氏がデートプランを決めるのは」
「…偽物だけどね」
そう俺が小声で言うと、香菜は軽く肘で俺の腹をついてくる。
たいして痛みも衝撃もなかったが、わざとよろめいておく。
「そういう無粋なことはいわないの。わかった?」
「はい」
「ならよろしくね」
「…もしかしていまの質問ってプランを決めといてねってこと?」
「あら、そう聞こえなかったの?」
そう得意げにいっている香菜はやはりきれいだった。
…仕方ないか
「…やらせていただきます」
「よろしい」
そうふざけ合う俺たち。
確かに俺と香菜はどちらかといえば友達同士に近いのかもしれない。
でも俺はそれを心地よいと感じていた。
◇
で、俺が選んだ場所は学校からほど近いショッピングモール。
かなり大きくここに行けば大体の物がそろう。
服や飲食などの店だけでなく、映画館やボーリング場などのレジャー施設も備わっているため学生たちのたまり場の一つとなっている。
かなり無難な場所といえるだろう。
「まあ妥当なところね」
「さいですか」
彼女からの合格を受ける。
デートは最初から攻めた場所を選ぶべきではない。
ソースは花さん。(8話登場)
彼氏に初デートに誘われた場所が海釣りだったらしい。
話すこともなくぼーっと過ごすという老人さながらのデートに嫌気がさし、帰り際に何も入っていないバケツをぶつけてきたらしい。もちろんそれから付き合いはない。…うん。よかった。無難な場所で。
「これからなにするの?」
「映画とかいいんじゃない?」
「…ほんと冒険しないわね」
とげのある言葉を香菜に頂戴したが、俺にとっては褒め言葉だ。
それに…
「だって、香菜の好きなこと知らないし」
「それもそうね」
納得してくれたみたいだ。
俺たちは映画館へと足を進めた。
◇
映画館に来たはいいが、重大なことを決めていない。
-見る映画だ。
まあ来てから選ぼうと思っていたからいいのだが。
そう思って香菜と一緒に今やっている映画を見ていく。
いつも一人で映画を見に行くときは、何の映画をいつに見に行くというところまで計画を立ててしまうからこうして映画を選ぶのは新鮮だ。
アクションやSFなどを筆頭に恋愛、アニメーション、それにミステリーなど様々なジャンルがある。一人ならアニメーションだが、今日はデートだ。そこを考えるとアクションか恋愛かミステリーかが安パイだ。
そんなことを思っていると香菜から話しかけてきた。
「…で、何の映画見たいの?」
「これといって特に…」
「…俊介が映画館に行こうって行ったんでしょ」
じと目でにらんでくる。
「ならこのミステリーとかいいんじゃない」
「その映画見たいの?」
「まあね」
「…ふーん」
そう言いながら香菜は俺を見つめてくる。何か顔についているのか?
やがて見つめ終わると、
「…ならその映画見ましょう」
そう言って券売機に香菜は歩いて行った。
本当はミステリーが嫌いだったのか?しくったか?
そんなことを思いながら香菜ついて行った。
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学校一の美少女に弱みを握られたら、なぜか偽の恋人になりました コウヘイ @udun
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