+1 幼なじみじゃなくなってもっ

ポケットに突っ込んだ手からは、クシャクシャになった写真の感触が伝わってきた。


10年前のあの日。


俺たちはその日もここで会っていた。


その日も花火大会があったんだ。


悠加は浴衣を着ていて、その日ははぐれたりしなくて、一緒に手を繋いでここまで上ってきた。


そして、おんなじこの石に二人で腰掛けて、話していたんだ。


『花火楽しみだな。』


俺が足をプラプラさせて言うと、


『僕も!』


そう悠加がふざけていつもは私というのに、そのときだけ僕って言ったんだ。


『っ!!!!』


その時の俺はあるアニメにハマっていて、そのアニメのヒロインが自分のことを僕って言っていた。


だから、俺は彼女に


『良いよ!!ゆっちゃん僕って言ったほうが可愛いよ!!俺はそっちのが好き!!』


そう無邪気に、後先考えずにただのアニメへの憧れでそう言ったんだ。


『えっ?そうかなぁ………。エヘヘ、ゆうくんがそんなに言うなら僕って言うことにするよ!!』


あの時から多分悠加は俺が好きで、そんな適当な提案にも乗ってくれて。


それで今まで10年間ずっと僕を貫いて来たんだ。


中学校の頃、女なのに僕って言ってるのを男子にからかわれて、泣いていたときもあった。


女子たちにもおかしいと言われて、皆から否定されて辛かっただろうに。


本来なら俺が『私でも良いよ』って言ってあげたり、せめて『僕って言うと可愛いよ』とか褒めてあげられればよかったんだけど、その時の俺は反抗期で。


幼馴染というのが嫌で嫌で、悠加と距離を取っていたからすれ違い際に『僕って…………良いな』と、ボッソリ呟くしかできなかった。


それなのに何故か彼女は、僕っていうのをやめなかった。


この写真は多分10年前に撮ったものだ、うちのお節介な妹が俺に踏ん張りをつけさせるために渡したんだろう。


『ありがとう』


俺はそう妹に呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ボクっ娘がボクっ娘になった理由 俺氏の友氏は蘇我氏のたかしのお菓子好き @Ch-n

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ