口づたえ
「あら何かわかったのかしら? はい、何?」
「先生がパソコンを買う時、小夏は先生の欲しいパソコンの性能を聞きましたよね、すごく細かく」
「そうね…何を重視するかは聞いていたわ。逆にいらない性能についても。それでスマホ片手にパソコンのことを調べていたわ」
「小夏がスペック調べていたことを龍井は知っていますか?」
「そういえば…聞かれたわ」
ふうん、やっぱり。
「最後に。その画面は見てないんですよね?」
「ええ、見せてくれなかったわ、あいつは」
「じゃあ、キーボードの音」
「キーボードの音?」
「3つ同時に叩く音が聞こえませんでした? こんなふうに」
タン、タン、タン。
「…そういえば、そんな音がしたわ」
浩然はにこっと笑った。
わかった、空っぽの電脳が何を話したのか。
パソコンの画面を和崎に見せながら浩然は言った。
「タスクマネージャーで確認したんですね」
「タスクマネージャーって…ああ、よくExcelとかが止まった時に切断したりするあれ?」
「そうです、使っているアプリケーションがフリーズした場合に停止を行ったりするあれです」
「それ、それ以外に用途あるの?」
「はい、用途は他にもありますが、今回はおそらく“ハードウェア”についてパソコンに聞いたんです」
タスクマネージャーはCtrlキー+Altキー+Delキーを3つ同時に押すと出てくる。左下の『詳細』を押す。上に『パフォーマンス』という項目を押すと、CPU、メモリ、ディスクという項目ごとに周波数の波が出てくる。医療ドラマとかで出てくる心電図のような波形だ。
「簡単に言うと、このパソコンの中の構造がここで確認できます」
と言って、浩然は和崎のパソコンを持ち上げて、底を叩いた。
「ハードウェアならいくらソフトウェアの内容が変わろうが、物理的に変わることはない。だからここだけは小夏が買った時のままなんです。そしてオンラインでもオフラインでもこの確認はできます」
和崎はあごに指を当て、首を傾けてしばらく考えると、
「ハードウェアを見たってことはわかったわ。でもそれでどうやって小夏の心を見抜くのよ?」
と聞いた。
「私も初めはよく解らなかったです。けど、そんなに難しいところまで見る必要は今回ありません。ええと、和崎先生は、文献調査とか中心に研究されてました?」
「? いいえ、フィールドワーク中心の研究だったわ」
「特殊なアプリケーションをインストールしていました?」
「いいえ、インタビュー形式の研究よ。Excelで管理していたわ」
「ということはExcelはかなり使っていたと?」
「そうね」
「Excelは他のOfficeのアプリの中でも重いから、そこそこスペックのあるパソコンでないといけないですね。あと、先生はゲームはしませんね。あと動画編集も」
「どちらもしないわ」
「最後の質問ですがこのパソコンおいくらでした?」
「10万円ぐらいだったかしら」
「小夏が買ってきたんですよね? じゃあ、領収書、見ましたか?」
「ええ、もちろん、領収書を見た上できっかりその代金と手間賃を払ったわ」
「なるほど…確かにこのパソコンでちょうどいいですね」
「ちょうどいい?」
和崎の使用したい用途は今おれがパソコンを買いたいパソコンの用途とほぼ変わらなかった。だから想像しやすかった。
Word、Excel、PowerPointというこの3つのofficeを使うのに申し分ないこと、そして動画を見ることに不便しないこと、ただし動画編集やゲームはしない。これらのスペックから、CPUはCOREi5(コアアイファイブ)、ディスクはSSDで10万円という値段。
「このパソコンは安いです」
「他にも安いパソコンなんていっぱいあったけど」
「たぶんそれだと、和崎先生のほしいパソコンはないと思います」
「なんで?」
「たとえばこのCPU」
「CPU?」
「簡単に言うとパソコンの頭の速さです。これにはグレードがあります。これはインテル社のもので、コアアイファイブ。CPUにはi3(アイスリー)、i5(アイファイブ)、i7(アイセブン)っていうグレードがあって、数が増えるほど頭の回転数が早くなります」
「うんうん」
「それ以外で、インテル社が出しているのがCeleron(セレロン)です。これは廉価版のCPUです。価格を安く抑えられますが、その代わりかなり遅いです。おそらく仕事したり、動画編集したりするには向かないです」
「つまりそのセレロンっていうのが入っていると悪いパソコンで、コアアイセブンが良いパソコンってことね。でもそれだとそのパソコンは普通のパソコンよね?」
「いいえ、一概にそうではないです」
「どういうこと?」
「セレロンは価格が安く抑えられますし、パソコンで1つの作業しかしないライトユーザーならセレロンで十分です。反対にコアアイセブンはPCゲームをしたり、動画やグラフィックアートなどクリエイティブな仕事をする人には適していますが、値段が高いですから、その他の人ならそこまで高いスペックは要りません」
和崎の顔を見ると、解ったような解らないような曖昧な表情をしている。
「私も今までそんなことは知らなかったんです。けど、この間希に龍井とは全く反対のことを言われたんです」
「反対のこと?」
「“お前、兄さんに嫌われてんじゃねーか”って」
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