コンビネーション
どうしたらいいか、考えていると、窓が目の前に映った。
「じゃあ、窓から落とすとかーー…」
と浩然が言ったので、3人で想像したが、
「「「いや無理でしょ」」」
という結論に同時に至った。
ここは市街地の中心で、十字路の大通りに面している。十字路に面していない残り2ヶ所はスーパーの入り口、開けた公園。つまり全方位、人の眼がある。そしてこの建物。2階から図書館だが、1階から2階までの高さが相当あり、それはだいたいショッピングモールの下の階と上の階ほどの高さがある。人の眼があり、その高さで本を落とすのは、犯人の心理的には行わない可能性が高い。
「あと、もう一ついいですか? その本、なんて言う本ですか?」
「え? 『鬼を探して』」
「鬼を探して…」
希はスマートフォンを取り出すと、ネット通販サイトを開き、書名を打つ。
「去年発売したの本で、値段は3000円か。なるほどね。二つのことがわかりました。1つは最近売り出した本てこと。なら売ってもお金にならない」
希が説明するが、易しい表現しか使わないので、司書の飯田はあんまりピンとしてない顔をしている。
チャンスだ。浩然は飯田のその様子を見て、希の言葉を補填しながらまくし立てる。
「確かに古書価が付きにくいなら、リスクを負ってまでの転売目的は低い」
「そもそも図書館の印鑑が押してあっただろうし、その可能性はもともと低いけど」
「それと同時に、買おうと思えば自分で買えるよな。新しい本なら出回ってる」
「そこだねー。てことは盗んだ理由はこの本が高いってこと」
「本自体の値段は確かに安くはない。ということは…」
「…どういうこと?」
飯田がきょろきょろしてこちらを見る。
「盗む目的は本人が必要だったからってこと」
この本を盗む大まかな理由はだいたい3つだろう。転売、コレクション、必要性。
転売。図書印が押されている上に、古書価はあまりつかないだろう。
コレクション。今のところ初版しか売られていない新しい本なので、買おうと思えば買える。
よってこの内、この本が盗まれた理由でもっとも高いのは“必要性”だ。
「ただ必要性が高いだけなら、盗むのは切り離すのが一番てっとり早いよな?」
浩然が希に聞く。必要なら中身だけ切り取って盗るのが一番てっとり早い。
「そうだね、そこはわかんないね。あともう一つ盗む理由は考えられるけど…」
転売、コレクション、必要性。そして。
「スリルか」
スリル。スリルを味わいたくて、この本を盗んだ可能性もある。ただその場合、この本である意味はない可能性が高い。つまり『この本をなんで盗んだか?』という問いからは外れてしまう。
「まあ目的何てわかりませんね。犯人じゃないし。でも、浩然を疑うなら、もう一人怪しいと思う人物がいます。あの日、防犯セキュリティのゲートを鳴らした、茶髪の男ですよ。彼なら、本が完全な状態で持ち出せますよね?」
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