飲茶(ヤムチャ)

 ほかほかと白い湯気が夜の茶館の空に溶けていく。蒸籠の中の色とりどりの点心の湯気だ。

 

 オレンジと黄色の木の葉が舞うデザインをした絨毯をひき、その上に中国茶の茶器と蒸籠を置いていく。浩然の目線は地面よりもだいぶ高いので、まるでドローンでゆっくり撮影するかのように、その中華版夜のピクニックを眺めていた。


 理性俱楽部は入口から右手に一か所だけ突き出したところがある。屋根がなく、まるで板の間が池の上に浮かんでいるようだ。普段は机と椅子を置いているスペースだが、今日は机と椅子をどかして、絨毯をひいて茶会をすることにした。今宵は三日月で、大変趣がある。


「すごいところです…!こんなところで働いていたんですね。なんか高級なおままごとみたいでわくわくします」

 もうシャンプーは眼がきらきら輝いている。

「なー、すっげー…」

 岡は口をぽけーっと開けて池を見つめている。


 牧瀬と話し合った後、牧瀬から約束通り10万をキャッシュでもらった。さすがに、仕事中に札束を見せられると、これは本格的にやばいな、と思ってしまった。これ、バレたら良くないんじゃないか…。

寧寧ニンニンなら知ってるわよ」

「え、マダム欧陽が?」

「ええ、もちろん。大切な給仕ですもの、確認取ったわ」

「え、でも…」

 それって、おれが金に眼がくらんでこっそりOKしたこともバレたってことなんじゃ…。冷汗がどばっと出た。

「あと、探偵さんはあなただけじゃないでしょう? 探偵団にするって言ってたから」

「ええ…でも名前とか個人的なことは伏せてますけど、中国語とかわからないことは聞きました」

「何人? 希くん除いて?」

「え、あと二人ですね」

 シャンプーには普通に感謝しているが、岡はまあ…協力してはいないが有力なヒントくれたしな…。


 シャンプーと岡に何かごちそうして、余ったお金を希と折半しようと思っていた。希の推理がやはり重要だったからだ。


「じゃあ、これで、三人に、ここの飲茶でもごちそうしてあげてくださいな。ここのは絶品なんだから。その飲食代はわたしが払っておくわ。だからあなたはあなたのためにそのお金を使ってちょうだい。ね?」

と言って、そのままレジに向い、雪梅シュエメイに予約と言って、4人分の飲茶代を別途支払った。



 シャンプーと岡が蒸し立てのあつあつの小籠包を蓮華にのせ、ちゅうちゅうと肉汁をすする。

「へぇー…てかうめぇ」

「すごくお上品な餡ですねぇ」

「じゃ、着替えてくるわ」

 今日は営業時間が終わった後に二人が来た。準備していたので、チャイナ服の紺色の制服を着ていたが、全部出し終えたので、着替えようとしていた。

「蒸したての今食べたほうがおいしいと思いますよ」

「そうだよ、まあ座れって、給仕さん」

 浩然ハオランは岡に腕を掴まれ、座らされた。

「そうだよ、もったいないよ~」

 手のひら大の肉まんをほおばりながら希が言う。希も制服のままだ。皆蒸気で熱せられて、頬が蒸されたように赤くなっている。

「久々に食べたなあ、チャオが作った飲茶~」

 趙はここの理性甜品俱楽部の料理長だ。熊のような見た目をしている。繊細できれいな点心が趙の手から生み出されていく様を見ていると、まだまだ世の中不思議なことあるなって思う。


 ここの点心セットは、まるで宝石のようにぷるんとした水晶海老餃子、肉汁と舌ざわり滑らかな餡が入った蟹入り小籠包、丁寧にこした小豆が入った桃饅頭ももまんじゅう、他にも野菜で緑やオレンジに色づけした蒸し餃子やミニ包子パオズなどが蒸籠せいろでサーブする。お茶も付いてきて、うちの店の中でもちょっと高級だ。食前茶として、ほうじ茶のような強い焙煎のかかった台湾の木柵鉄観音もくさくてっかんのんをいただく。温かみのある味わいのウーロン茶で、口の中をすっきりとさせてくれる。


「満足か?」

「うん~」

 満面の笑みで希が答える。本当にガキみたいな奴。

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