酒村希
雪梅とラインを交換した。ついでに希とも交換した。正直浩然は“なんで交換しているのか?”よく解らないまま。まあ、雪梅だけ交換するのもなんか悪いし…。その後ファーストフード店を出た。
「わたしはバスだから」
「おれは電車」
「僕も電車だ」
「じゃあ、またね!」
軽やかに雪梅は去っていった。
無言のまま、希と歩いていた。う…気まずい。
「…言ったでしょ、雪梅は強いよって」
「うん、そうだね」
「雪梅のこと、それでも気になる?」
「…まあ。希くんも?」
「僕は浩然さんのほうが気になるね」
急にこちらへ振り向くと、眼を
「ふーん…なるほどね」
「な、なに…?」
「中国の北方出身だよね?」
「あ…両親はね。なんでわかるの? …あ、背?」
「あと鼻が高い」
そう言われて浩然は鼻を押さえた。鼻は顔の中で浩然がコンプレックスと思っているところだった。
多くの日本人は気づいていないだろうが、日本人は鼻が低いというより鼻が小さいのだ。そう思うと浩然の鼻は大きくて高い。鼻が高く、背が高いというのは北方に多い特徴だ。もちろん人なので例外もあるが、その特徴を知っているということはやはり酒村はよく中国人を知っているのだ。
「中国語、本当に話せないの?」
「う…うん」
「ふーん」
希がぐるぐる眼を動かし、急に眼を合わせるとこう言った。
「
…え。
「………っ!!」
浩然の顔がみるみるうちに赤くなった。
———落ち着け! 今のは中国語なんだから、言いたかったことは要するに…。
「ふーん、話せないけど、聞いてわかるんだね」
それを確かめるために、雪梅とヤリたいの?って聞いたわけだ。単に反応を見るために。
「なんで聞いて分かること、隠すの?」
希はまっすぐこちらを見据えて言う。
「…よくわかんないから。話せないのに、聞いてわかるなんてどう説明していいかわかんない。ならわからないって言っておけば期待されないし…気持ち悪くないだろ」
さっきとはまた別の意味で顔が紅潮していくのがわかる。さっき雪梅の秘密を暴いたのは自分なのに現金なものだけど。それでも…。
「…バイリンガルにおれの気持ちなんて分かるはずないだろ」
だっておれは中国語に挫折した中国人なんだから。
希の眉が片方上がった。
「何言ってんの? 浩然さんが思うほどいいものじゃないって。それより浩然さんは知りたい? 自分のこと」
「え…。知るって何を?」
すると、ぱっと希の眼が明るく光って笑った。
「戻ろう」
と言って、希は来た道に踵を返した。
「ほら、早くおいでよ」
初めて希を見た時の印象そのまま、不思議の国のうさぎはこちらを手招きする。
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