鬼はこの中にいる

 それにしてもどうしてだ? 

 どうしてそんなに『鬼を探して』でみんな書いたんだ?


 自然と自分の喉に手を伸ばして、浩然は考え始めた。


 浩然は真面目に授業を受けていた。この本がオススメだとか、その著者を講義中に出していた覚えはない。ということは。不真面目な生徒が誰かのを写したってことか。いやそれも中々ないことだと思う。垣内もまた真面目な先生であるからだ。しっかりレポートを読む垣内なら同じような文面ならすぐ気づくはずだ。だからそんなあからさまことをする人なんてほぼいないだろう。


 それなら、と考えるのが普通だろう。共有の仕方で考えられるのは2通り。

 まず本の回し読み。提出期間が1週間だと回し読みできるのはせいぜい3人。多いという数にはならない。ということは、おそらくもう一つの方法だろう。そしてそれなら、まだ持っている可能性があるから、確かめられる。


 講義後、最後部を陣取っていた、1年生らしき男子に話しかけた。初めはこの大男にびっくりしていたが、愛想よく話を聞いてくれた。ブリーチした髪にブルーの色を入れた男だ。

「あー、今回のレポートで書いた本の題名?えーと…なんだっけ?」

「『鬼を探して』じゃん!おれが送ってやったの忘れたのかよ」

 ブルーの隣に座っていた男子がブルーを小突こづく。“送った”――やっぱりそうか。

「もしよかったら見せてくれないかな。実は市立図書館で探してたんだけどなくって」

 うん、嘘じゃない。

「うん、いーよー。ラインある?」

 よかった。“どうして提出終わったのに見たいんだ?”みたいなこと聞かれなくって。

 ブルーとラインを交換し、確認する。そのままファイルを送ってもらった。

 

 ビンゴ。PDF化されている『鬼を探して』を見つけた。見開きでPDF化されていた。

 本を電子化すれば複数の人間が同時に閲覧できる。だから今回この授業で多数の人間が同じ本でレポートを書いたのだ。


「ありがとう。これどこで手に入れた?」

 とブルーの友達に聞く。

「グループラインだけど?」

「だれが送ったとかわかる?」

 ブルー友達が考えるが、

「わかんない。いくつかのグループラインで出回ってたから」

「ごめんなー」

「あ、いやいや! ありがとう送ってくれて」

「いえいえ~」

 少なくとも本がなくなったのと、電子書籍化されているのは因果関係がありそうだ。しかし、この200人の学生の中から犯人を探すのはたぶん無理だ。 


 最後部の席から講義室を出ようとした。その時、後ろから男が歩いてきて、扉の所でちょうど浩然と並んだ。

「え…」

 この感じ。なんだ? なんか覚えている——。

 浩然は驚いてその男を見た。茶髪男だ。ヤシの木が描かれたプラスチックのキーホルダーのついた、大きなリュックサックも同じだ。


 茶髪男はこの大学の学生で、この授業を履修している。

 盗まれた鬼の本。電子化された本。必要性。すべてがつながりそうな予感がした。

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