鬼さんこちら
「よ!
白シャツに白と青のストライプのオーバーオール、ペラペラのトートに黒皮の靴。黒のキャスケットの帽子をかぶっている。民俗学の授業後、
「なんか消化不良っていうか、はやく誰かに吐き出したかったっていうか…」
「ん? 吐くの? なんか変なもん食べた?」
止まらずに一気に話した。大量の『鬼とは何か』という本で書かれたレポート、そこから電子書籍として出回っていたこと、そしてあの茶髪男がその授業を受けていたこと。希には難しい言葉が時々あったので、逐次丁寧に説明した。
「売る、集める、必要、遊び」
希がぽつりと言った。
「うん? ああ、“転売、コレクション、必要性、スリル”のこと? 犯人の動機」
「そう。犯人は“必要”だったから盗んだんだね」
「そうなるね」
「でも犯人が誰だったとしても、この本を返してもらう方法はないね」
希がそうつぶやいた。
そうなのだ。たとえ犯人が分かったとして、返してくれることはないだろう。
浩然は希に電子化された『鬼を探して』を送った。希はiPadでその電子書籍を確認する。
「このレポートが出されて、そのタイミングで本がなくなった。しかもその本がPDF化されて出回ったのなら、やっぱりあの民俗学を取っている人の誰かだと思う。市立図書館は大学からも近い訳だし。その上、あの茶髪男も怪しい。確かにあいつならDVDをおとりにして堂々と盗める。ただ、犯人まではさすがに結びつけられない…よな?」
『鬼を探して』。最初見た時は著者が“鬼を研究した末に書いた本”という意味でとらえていたが、今は違う。鬼のほうから浩然へ、まるで鬼ごっこに誘いこまれてしまったようだ。つまり浩然にとってはとんだダブルネーミングだったわけだ。
ふと希を見ると、眼を見開いたまま、固まっている。
「?」
その見開きの本をPDF化したファイルを浩然は事前に見ていた。しかし特に犯人と
またプロパティでこのPDFファイルの情報を確認したら、作成したのは先週の木曜日、つまり本が無くなったとされる日の次の日だった。盗まれた後に作成されたことから、PDF化された本の元の本は盗まれた本と同じの可能性がまた高くなった。
しかし、それしかわからなかった。
見開いたまま、緑色の眼がまた光った。頬が紅潮し、興奮しているようだ。
「犯人、返しにくるかもしれないよ…!」
どういうことだ?
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