第2章 鬼を探して

図書館(1) ★1

「――…民俗社会における子どもは、“七歳までは神のうち”などと表現され、神に近い存在として、神様と同等の扱いを受けたりもしますが…」

 

 民俗学の授業を頬に肘をついて浩然は聞いている。

 昨日の出来事がまだ尾を引いている。アイドルファンの話、15人全員遅刻したわけ、そして酒村希。二つ事件は印象を“焼き付ける”ために行ったもの。そして、あの酒村希という男、なんとなくだけど、また会うような気がしていた。


 希は歳は1つ下だ。しかし、昨日希に会って、希に、

「僕が言っている意味が分かるもんね」

と言われたのが不思議と反芻していた。なんだかそれは柳田國男が言う、子どものような、どこか神秘的な響きがあったように感じた。18歳だけれども。


 授業後、市立図書館に向った。民俗学で「鬼」について一冊本を読み、レポートで提出するという課題が出ていたからだ。大学にも大学図書館があるが、市立図書館は漫画や雑誌などもそろっているからたまに行きたくなる。


 市立図書館は市の中心にあり、大通りと公園に面している。1階はホールになっっており、2階から4階が図書館となっている。

 図書館のパソコンでOPACというオンラインの蔵書目録を開いて、一番上に表示された本をピックアップした。『鬼を探して』。印刷ボタンを押して、レシートのようなものを引っ張り出した。本の場所が書いてある紙だ。場所は3階か。

 

 本を取りに行くと、その本は能で使うような赤い鬼のお面が大きく載っている本だった。さっそく中を開いてみる。

 

 その本によると、神話以外の歴史上に初めて『鬼』という存在が登場したのは、まつろわぬ民、すなわち王権に服従しない者の存在を『鬼』として表現していたらしい。つまり異民族。自分たちと違う者、たとえそれが人間だとしても鬼と言い、異形の者として扱ってきたらしい。

 挿絵にヤマトタケルがひげを伸ばした大男を討伐している絵が載っている。


 そういえば小学生で、まだ日本語が上手く話せなかった頃、鬼ごっこではよく鬼役にされてたな…。背が高いので、すぐに捕まるし、話せないからととにかく爪弾きにされる役目が多かった。


 そう思うと今も昔も変わらないのかもしれない。結局のところ、人間は本能的に異物を鬼とするような気がする。


 すると、ぬっとある人物が本棚の影から出てきた。飯田という司書である。伸びて重めになった髪、分厚い眼鏡をかけた男だ。30歳ぐらいか。いつもネルシャツをきている。


 浩然は声に出さなかったが、びっくりした。思わず、開いた本で口元隠した。


 実は浩然は飯田が少し苦手だった。


 

―――――――――――

★1…『鬼を探して』のモデルにした本のビジュアルを紹介していますので、よろしければそちらも合わせてお楽しみください。

https://kakuyomu.jp/users/Ichimiyakei/news/16816927859108426984

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