緑茶の淹れ方
初めて和崎と喋った一週間後の言語学の講義後、なぜか和崎に呼び出された。
和崎の研究室に入ると、大量の本が蠢いているように、押し入れられている。外国語の本や明らかに昭和の時代より以前の古い本も乱雑に棚に収められていた。たまにAV女優のルポやアングラ文化の本などが入っているところが気になる。
本が好きな浩然はその光景に吸い寄せられそうになった。和崎が閉じた扉をもう一度開け、開けっぱなしにした。
「何飲む?」
「あ、お構いなく」
浩然は本に吸い込まれそうになった手をピタッと止め、そそくさとソファに座った。
「ふうん」
和崎は電気ポットとマグカップを持ってやってきて、和崎も向かいに座った。マグカップはマットなグレー色で、無駄な装飾はなく、シンプルなものだった。そして中には、鮮やかな黄緑色の芽がぱらぱらと入っていた。
「これって…、中国茶ですか?」
「そう、もらったものなんだけど。
コポコポとお湯を入れた。お茶の葉が上に浮かび、お湯をたっぷり吸う。ロンジンの苦味を含んだ瑞々しい香りがふんわりと本のインクと埃っぽいこの部屋を舞う。
「
「そう。美味しいけど、あんまり日本の緑茶と変わらないと思って。どうしてくれたんだろう」
「でも
「へえ、そうだったの」
くれたものに対して和崎は何か文句を言うタイプには見えない。それが返って、その間柄はずいぶん親しいものに感じた。
「口下手な方をよく見ていたんですね」
浩然は笑った。和崎は無表情でこちらを見てくる。
「なんでそう思うの?」
「あ、いや、こんな淹れ方普通は知らないと思ったんです。日本では普通急須で入れますよね。しかも中国では耐熱ガラスのコップに淹れるんです。お茶の水色を見たり、お茶の葉が浮いたり沈んだりするのを見るために。でもグレーのマグカップじゃ見れないし。ということは、この淹れ方は教わったんじゃなくて、見て覚えたのかなー、なんて」
「相手が口下手っていうのは?」
「ああ、この茶葉です。きれいな黄緑色していたし、茎もない。いい茶葉だと思います。でもたぶんそれ伝えてないですよね?」
だからおれみたいなただの学生に出しているわけだし。
和崎は一瞬眼が大きく開いたが、その後つまらなそうな顔をした。何がこの二人にあったのだろうか…。
「あの、今日のお話ってなんですか?」
「アルバイト、しない?」
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