第30話 意外なつながり

 遥さんはしばらく黙って歩いていたが、学校が見えない場所まで来ると、


「あたしの高校まで来るなんてどういうつもり?」


と、僕らを問い正した。りっちゃんはおずおずと事情を説明した。


「ふうん。で、あたしとの関係を続けたいって?」


「ごめんなさい! でも、遥とは別れたくないの・・・」


「あたしは、理沙のお婿さんにはなれないし、あんたと子どもも作れない。あたしたち、付き合っていても今までずっと隠れてデートしてきた。だって、それはあたしもあんたも両方女だから。どちらかが男だったらどう? 堂々と手を繋いで外を歩ける。結婚もできる。子どもだって作ろうと思えば可能性がある。全然、あたしなんかと付き合うより、男と付き合った方が理沙にとっていいじゃない」


りっちゃんは言葉を失って涙を流した。僕は二人の間に割って入った。


「ちょっと待ってください。僕、遥さんに頼まれた通り、ちゃんとりっちゃんと話をしました。りっちゃん、僕とじゃなくて遥さんと一緒にいたいって、その時僕に言っていたんです。だから、りっちゃんが好きなのは僕じゃなくて遥さんなんです」


「一郎との関係がなくたって、理沙が男が好きになれるっていうんだから、また別の男と付き合えばいいだけじゃない。わざわざ女しか好きになれないビアンのあたしを笑いに来たわけ?」


「そんなことしないよ。わたしは遥をそんな風に笑ったりしない。」


そう言うなり、りっちゃんは僕たちの眼前で遥さんにキスをした。僕らは皆、息を呑んだ。


「ちょっと、路上で何してんのよ!」


遥さんが叫んだ。


「遥がわたしと堂々とデートできないのがコンプレックスなら、もう隠すことしないから」


「はぁ? 何言ってんの?」


「わたし、遥がわたしのこと信じてくれるまで、帰らないから」


りっちゃんの必死の訴えに、遥さんは少したじろいだ表情を見せた。


「わ、わかったよ。あんたがそこまで言うなら、もう一度あんたを信じてみるから。でも、もう二度と男なんかに浮気しないで。いや、女でも嫌だけどさ・・・。次、浮気されたら、あたしはあんたのことを信じ続ける自信はないよ」


「はい。わかりました。もう絶対に浮気はしません」


と、りっちゃんは遥さんを真っ直ぐに見据えて言った。僕らはやっと胸を撫で下ろっすことができた。


「そういえば、一郎って原井と中学の同級生だったの? 一郎と中学時代何があったっていうの?」


と、遥さんが僕に尋ねた。


「はい。中学校の同級生でした。僕、あいつのことが中学時代に好きだったんです。だから、ずっといつも一緒にいたくて追い回してた。そのせいで、同級生にホモだってからかわれて。それからしばらくして、今度は廉也自身がいじめる側に回って、僕のことをホモだオカマだっていじめるようになっていったんです」


「あの人なんですね。好きだった人にいじめられたって言っていたの」


と言うたっちゃんに僕は頷いた。遥さんは僕の話に腹を立てた。


「何それ。あいつ最低じゃん。あいつ、あたしのクラスメートなんだ。それに、実は、一郎にこの前話した、理沙のことを狙ってる男って、あいつのことなんだ」


僕らは全員驚愕した。だから、廉也だけりっちゃんを一方的に知っているような素振りを見せていたのか。


「わたし、あんな人と付き合うの絶対嫌。わたしには遥がいるし、遥よりあんな人がいいなんて死んでも思わない。今のわたしには遥しかいないの!」


りっちゃんはそう叫んだ。それを聞いた遥さんの頬がぽっと赤くなった。あのいつもクールな遥さんでもこういう顔する時があるんだ。


「理沙、それ本当だよね? あたし、理沙が一郎のことを好きになったって聞いて、理沙が男もイケるんだってことを知った。そんな時に、あの原井が理沙のことが好きになったって聞いて、あいつに理沙を盗られたらどうしようってずっと考えていたんだ」


「そんなわけないでしょ! 男だから女だからという理由でわたしは好きな人を決めてないよ。それに、わたしはバイといってもビアン寄りだから、基本は女の子が好きだよ。でも、女の子でも合う人と合わない人がいる。それは男の人が相手でも同じだよ。だから、あの人に告白されてもわたし、断るから。いや、どんな人でも遥がわたしの彼女でいてくれる限り断るけど・・・。とりあえず、ゲイのこと、それに一郎先輩のことをあんな風に言うなんて許せない。」


りっちゃんは顔を高揚させ、口角泡を飛ばして怒った。そんなりっちゃんを遥さんは静かに抱きしめた。


「あたしも、ちょっとどうかしちゃっていたわ。そうだよね。恋愛って男か女かの前に、その人の人となりによって決まるものだものね。あたしだってどんなに可愛い女の子でも、好きになれない子もいる。それは、バイのあんたも一緒ってことだよね」


「うん・・・」


「理沙、ごめんなさい。あたし、感情的になってあんたを傷つけるようなことを・・・」


「いいの。わたしこそ、ふらふら浮気心を起こして事の発端を作ったんだから。遥、好きよ。これからもわたしを愛して」


「うん。もちろんだよ。これからもあたしはあんたのことがずっと好きだから」


二人は抱き合ったまま静かにキスを交わした。

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