第31話 緊急事態
りっちゃんと遥さんの寄りが戻ってから翌日の土曜日、僕はゴロゴロしながらゲームをしていた。今週末、翔は大事な模試があり、一日会うことはできない。せっかく僕の方も翔とのよりが戻ったのに、ほとんどデートもできない状況に僕のフラストレーションは溜まる一方だった。そんな時、僕の携帯に栄斗から着信が入った。なんだろう、こんな週末に?
「もしもし、一郎だけど。どうかしたの?」
「一郎くん、ちょっと俺の話聞いてくれないかな? 今、どこ?」
「家だよ」
「じゃあ、そのまま学校まで来てくれないかな?」
「急にそんなこと言われても困るんだけど。一体何の用なの?」
「お願い! 俺、緊急事態なんだ」
栄斗の声は切羽詰まった様子だ。これは行かない訳にはいかなさそうだ。
「わかったよ。あと一時間くらい待てる?」
「うん。いいよ。俺、料理部の部室にいるから」
「わかった。じゃあ、また後でね」
僕は携帯を切ると、家から駆け出した。
僕が部室に入るなり、栄斗は
「先輩助けてください。」
と泣きそうな顔をして僕に縋りついた。
「どうしたっていうの?」
僕は栄斗を落ち着かせるために、お茶を淹れてあげることにした。僕がお湯を沸かしていると、栄斗は思いつめた表情で話し出した。
「俺、昨日、原井先輩に会ったじゃないすか」
「ああ、そういえば、栄斗、あいつと知り合いっぽかったね。どういう関係なの?」
「原井先輩、サッカー部なんす。俺の高校ともたまに練習試合するチームで、顔見知りなんだけど、俺、昨日、一郎くんがゲイだったせいで原井先輩にいじめられていたこととか知らずに、原井先輩の前に出ちゃって・・・。
しかも料理部の部員なこと、ずっと隠して来たのに、一郎くんとが部活の先輩だって口が滑ってしまって。原井先輩、うちのサッカー部の部員全員知ってるから、一郎くんがサッカー部の部員じゃないってことわかるんす。
俺、このままじゃ、サッカー部のみんなにも、俺がバイなことバレちゃうよ。サッカー部のやつら、ホモなんてありえねぇとか普通に言ってるし、俺がバイなことバレたらもういれなくなるよ。一郎くん、なんとかしてよ」
そういうことだったのか。確かに、それは緊急事態だ。廉也のやつ、僕らみたいな人間をいまだに相当嫌悪しているようだった。栄斗が「ゲイ疑惑」をあいつにかけられた以上、何をしでかすかわからない。でも、力で圧倒的に劣る僕が、廉也に決着をつけることなんてできない。どうしよう・・・。と、その時、僕は体育祭にたっちゃんのいじめっ子三人組を湊が撃退した時のことを思い出した。あれだ!
でも、問題はそこからだ。どうやってまたあの廉也に会うのか。そして、どうやって廉也にやられる前にあいつに手を出せなくさせるか。今日と明日はどっちの学校もお休みだ。次は週明けの月曜日。その日なら、翔も模試を終えて少しは時間があるだろう。それに、料理部の問題が起きた時は、翔も協力すると約束したばかりだ。翔の協力は仰げそうだ。だけど、もう一人か二人くらい、協力者がいてほしい。できれば、廉也の高校の内部に・・・。そうだ! 僕は閃いた。
「栄斗、たぶん大丈夫だと思う。月曜日、もう一回、廉也に会いに行こう」
「え? 原井先輩に会うんすか? 嫌だよ。俺、なに言われるかわからないもん」
栄斗は本気で嫌がっている。
「大丈夫。僕がちゃんと守るから」
そんな僕を栄斗は訝し気に見た。
「え? 一郎くんが? でも、一郎くん、昨日原井先輩に殴られそうだったじゃないすか。無理だよ、一郎くんだけじゃ」
「それも、ちゃんと対策打つから。とりあえず、一緒について来て」
そう栄斗に言うと、僕は、遥さんに電話をかけた。
「なに、一郎。昨日の今日で、またあたしになんか用事?」
遥さんは寝起きの不機嫌そうな声で電話に出た。
「土曜日なのにごめんなさい。今度、月曜日の放課後、僕、もう一回廉也に会いたいんです。」
「は? なんで! あんなやつともう関わることないって。わたしももう絶交するつもりだから」
「それが、そうも言っていられない事態が起きちゃって。とりあえず、月曜日の放課後、廉也を学校の目立たない場所に呼び出してほしいんです。校庭の隅とか、なんかいい場所ないですか? あ、できれば職員室に近い場所で!」
「まあ、いくらでもあるけど」
「じゃあ、その場所、これから案内してくれませんか? ちょっと下見をしたいんです」
「え? 今から? ちょっと、今日休みなんだけど。なんで、こんな日に学校行かなきゃいけないわけ?」
「すみません。今度、ジュースかなにか奢りますから。お願いします!」
「わかったよ。じゃあ、今から学校行くから。一時間後に校門の前で待ってて。」
僕は電話を切ると、早速、遥さんの高校へ向かった。栄斗は何が何やらわからないといった様子だったが、僕を全面的に信用してくれるようだった。
僕は遥さんと落ち合うと、事の事情を説明した。そして、僕の密かに考えているとある計画も彼女に教えた。すると、遥さんは喜んで乗ってくれた。
「面白そう! それ、あたしも乗ったわ」
遥さんはノリノリで、僕らに学校を案内してくれた。僕らは、各場所を巡りながら、綿密な計画を立てた。僕は翔にもメッセージを入れ、月曜日の放課後に僕とこの高校に来ることを約束してもらった。そして、もう一人、計画遂行に鍵となる重要なメンバーであるりっちゃんに連絡を取った。僕の計画は着々と進みつつあった。
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