第29話 思わぬ再会
僕は後日、りっちゃんと二人で遥さんに事情を説明しに遥さんの高校を訪れることにした。りっちゃんに一時でも想いを寄せられた僕としても、ちゃんと遥さんともう一度話をしないといけないと思っていた。りっちゃんが僕に浮気心をもっていたという話は部活の中で大受けした。面白がった他の部員も僕たちについて遥さんの高校まで行くことにした。
りっちゃんはこんな大人数で出かけることを嫌がり、
「とりあえず、あんたたちはついて来るだけにしてね。話をするのはわたしと一郎先輩だけでいいから。あんたたちは離れたところにいてよね」
と再三部員たちに忠告した。
「わかってるって」
「他人のフリしとくから大丈夫だよ」
そんなことを口々に言いつつ、皆の表情は好奇心丸出しだ。りっちゃんは大きなため息をついた。
りっちゃんの彼女の高校に着くと、とりあえず、他の部員たちは校門のところで待機することにし、僕とりっちゃんで中に入ることにした。今は下校時刻だけあって、多くの生徒が行き交い、遥さんを見つけることも難しそうだ。僕らがキョロキョロ探していると、いきなり後ろから、僕は肩をポンと叩かれた。
「あれ、お前、因幡じゃねぇの? なんでここにいるんだよ?」
その声に僕はさっと血の気が引いた。僕が恐る恐る振り返ると、そこにいたのはあの廉也だったのだ。
「な、なんで君がここに・・・?」
僕は震える声で尋ねた。
「なんでって、俺の高校、ここ」
廉也は僕の恐れなどまったく意に介さない様子でそう答えた。
「一郎先輩? どうしたんですか? 知り合いですか?」
とりっちゃんが僕に尋ねた。そこで廉也は僕と一緒にいたりっちゃんに目を留めた。
「あれ? お前、なんでこの子と一緒にいるわけ? お前の彼女かよ。お前、ホモじゃなかったのかよ?」
「知り合いなの?」
僕がりっちゃんに尋ねると、りっちゃんは首を横に振る。
「知り合いじゃねぇよ。まず、俺の質問に答えろよ。なんでお前がこの子と一緒にいるのかって聞いてるわけ!」
「部活の後輩だからだよ」
僕は努めて冷静に廉也に答えた。すると、廉也はそんな僕をあの中学時代にしていたような蔑んだ目で見下した。
「へぇ。お前って、男だけじゃなくて、女もだぶらかすんだな。ホモって、男にも女にもキモいことするのかよ。人間のクズだよな、お前らって」
僕はその一言で火がついた。もう、僕には廉也に対する恐れの感情は消えていた。
「確かに、僕はゲイだよ。だけど、そうやってバカにするのはやめてほしい。僕は男だったら誰でもいいわけじゃない。女の子に手を出したりなんて、するわけない。そんな言い方するのはやめてよ。」
僕が静かな怒りをこめて話す様子に、廉也は初めてたじろいだ表情を見せた。だが、そのたじろぎを隠すかのように、今度は僕の胸倉をつかんだ。
「なんだよ。因幡のくせに。なあ、覚えてるか? お前、俺に中学のとき、パンツ脱がされてピーピー泣いてただろ。そんな弱っちいやつが、いつの間にそんなにいっちょ前に強くなったつもりでいるんだよ?」
僕らの喧嘩に、辺りが騒然となった。りっちゃんが悲鳴を上げ、そこに、料理部員たちが慌てて飛んできた。
「一郎くん!」
中でも、サッカー部所属で運動神経抜群の栄斗が、そう僕の名前を叫び、真っ先に助けに飛んできた。栄斗が僕と廉也との間に必死に入り、僕が殴られるのを阻止してくれた。しかし、次の瞬間、栄斗は凍り付いた表情で固まった。
「原井先輩・・・」
廉也も驚いた顔で栄斗を見ている。
「上原じゃねえか。なんでここに? お前、こいつと知り合いなのか?」
「部活の先輩・・・」
「は? 因幡がサッカー部の訳ないだろ。何言ってんだ、お前。おい、お前なにか隠しているだろ」
栄斗が後ずさった。それを見て、廉也はニヤニヤし出した。
「お前、さっき、こいつのこと、一郎くんとか呼んでなかったか? 俺、その一郎くんと中学時代の友達なんだ。お前、知ってるか? 一郎くん、ホモなんだってよ? そんなホモの一郎くんを助けに来るって、お前、もしかして一郎くんと付き合ってるんじゃねえの?」
「ち、違います! それだけは絶対に、違います・・・」
栄斗はもう半泣きになっていた。
「俺、すっかり騙されていたよ。お前がホモだったなんてなぁ。これ、お前の部活の連中に言ったら、絶対盛り上がるだろうな」
廉也はそう言ってさも愉快そうに笑った。栄斗は泣きながら、
「違います・・・。やめてください。お願いします・・・」
と繰り返している。と、そこに遥さんが歩いて来た。
「ちょっと、原井、なにやってんの? なんで理沙ここに来てるの? 一郎まで一緒だし。どういう状況よ」
と尋ねた。
「え? お前、因幡と知り合い?」
廉也も混乱している。
「そうだけど。あんたたち、いったいここで何やってる訳?」
と、その遥さんがそこにいる全員を見比べながら聞いた。
「そんなこと知らねぇよ。こいつがいきなり押しかけてきたから話をしていただけだし。とりあえず、お前ら二人には教えといてやるよ」
そう廉也はりっちゃんと遥さんに向かって言った。
「この因幡一郎ってやつ、中学の時、俺のこと好きだったんだぜ。本当に引くよなぁ。ホモとか、なんでこの世に存在するのって感じじゃね? 気持ち悪すぎだろ。男のくせに男が好き、とかまじでありえねぇし。そのせいで、こいつ、中学の時ずっといじめられてたんだぜ。まあ、でもいじめられて当然だよな。こんなキモいやつ、生きてる価値ないもんな」
遥さんはずっと黙っていたが、その手はぎゅっと拳が握られ、その拳がブルブル震えていた。すると、次の瞬間、廉也の頬を遥さんの渾身の力を込めた平手が見舞った。廉也は地面に倒れ込んだ。
「あんた、最低! あんたこそ生きてる価値ないわ。さっさと消えろ、クズ野郎!」
そう廉也に怒鳴ると、遥さんはそのまま校門の方へどんどん歩いて行ってしまった。僕らは慌てて彼女を追いかけた。
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