第26話 将来の夢

 僕は、久しぶりに翔、湊、嶺くんの四人で僕の家に泊まることになった。僕ら四人だけで過ごすのも久しぶりだ。僕は翔のために久しぶりに鶏の唐揚げを作ってあげた。翔はまるで子どもみたいに、唐揚げに夢中になった。翔は僕が思っている以上に子どもっぽいということを、僕は今回身に染みて思い知らされた。これまでのように、翔を求めるだけじゃなく、僕が翔を引っ張っていけるようにならないといけない。僕も翔に可愛がられるままに、甘えん坊のままでいてはいけないということだ。


 夕飯を食べ終わり、風呂から上がって火照った身体をアイスクリームで冷やしながら、僕ら四人は語らった。


「そういえば、翔の第一志望の大学ってどこなの? なにを勉強しようと思っていたの?」


僕が聞くと、翔はすこし恥ずかしそうに、


「東京の大学なんだ。その大学に、社会学の教授がいるんだけど、その教授、ゲイをカミングアウトして同性婚について研究してる先生でね。俺、その教授のもとで勉強して、一郎といずれ結婚できる道を探したいって思っていたんだ」


と話した。今度は僕が恥ずかしくなって赤くなってしまった。


「すごーい! じゃあ、僕にもそんな道わかったら教えてね。僕も嶺と結婚できるようにね」


そんな湊に翔はコクリと頷いた。


「もっと早く一郎に言ってやればよかったのにな。隠しているからこんなことになるんだぞ」


と、嶺くんが言った。


「だって、夏休み、勉強にあまり身が入らなくて、成績落ちちゃってから、あまり大学のこと話したくなかったんだよ」


その翔の気持ち、わからないでもない。僕があの時進路についてしつこく翔に聞いたのは、翔にとってみれば傷口に塩を塗られるようなものだったんだろうな。


「しかも、一郎と別れてから、すっかりその大学に行く意欲も失せて、俺、全然勉強に身が入らなくなっちゃった。もう、十一月になるし、間に合わないかもしれない」


「だったら、僕と一緒に来年受験する? 一緒に大学生になろうよ」


僕はそう言って翔の上に乗せづいた。


「お前はまだ行きたい大学も学部も決めてないだろ。一緒の大学に行くかどうかだって、お前、まだわかんないだろ?」


確かにそうだ。僕も、もっとよく将来のこと考えなくちゃ・・・。


「嶺は? 大学受験どうするの?」


翔が嶺くんに聞いた。


「俺も、東京に大学から出ようと思ってる。俺は理系だけどな。工学部行こうかなって思ってるよ。工学部出て、ちゃんとしたところに就職して、湊を養ってやらないといけないしな」


「わー、嶺大好き!」


湊は嶺くんに抱き着いた。


「でも、翔も嶺くんも大学東京になる予定なんでしょ? だったら、僕と湊も高校卒業したら一緒に東京行こうよ。それで、四人で一緒に住もう?」


僕がそう提案すると、翔が、


「おいおい。だから、お前、東京に進学するかどうかだって、まだ決めてないだろ」


と諫めた。


「わかってるよ。でも、大学なんてたくさんあるし、僕、その中でどこかいい場所見つけるからさ。ね? いいでしょ?」


そういう僕に、湊が乗って来た。


「さんせーい! 僕もみんなと一緒がいい!」


「俺も、実はそうなるの夢見て、翔が東京の大学受けるって聞いたときに、東京にある大学探したんだ」


そう嶺くんは恥ずかしそうに言った。


「なーんだ。みんな同じこと考えているんだね! ね、翔?」


僕は翔にそういって抱き着いた。


「もう、仕方ないなぁ。でも、一郎は一郎で、よくこれからのこと考えるんだぞ。俺、今度はちゃんと相談乗るから」


翔はそう言って僕に優しくキスをした。


 僕にはまだ将来のことなんてわかっていない。でも、これからの人生どうなるかなんてわからないし、今の段階でしたいと思うことをすればいい。その先に未来がつながっている。僕はそう思うと少し気が楽になった。


 その夜、僕と翔は僕のベッドで、嶺くんと湊は下に敷いた布団で寝ることにした。嶺くんも湊も疲れていたのか、早々に寝息を立て始めた。僕はそっと翔の頬をつんつんした。


「翔、起きてる?」


「なんだ?」


翔は僕の方へ寝返りを打った。


「久しぶりに、翔としたい」


「は? 今日はだめだろ。湊も嶺もいるんだぞ」


「大丈夫。二人とも寝てるから」


「そんなことしたら起きるだろ」


翔はぐずぐず言っていたが、僕はもう我慢できなかった。


「僕、もうずっと翔としてないんだ。いいでしょ?」


そう言うと、翔にキスをした。そして、股間に手をやると、すっかり固くなっているではないか。


「なーんだ。翔も本当はやりたかったんだね」


「バーカ! いいから脱げよ」


翔は恥ずかしそうにそう言うと、僕の服を脱がせにかかった。


 僕は翔の感覚を久しぶりに味わった。ずっとずっと求めていたものがここにあった。僕は思わず声を上げそうになるのを必死に堪えながら、翔に身を任せ続けた。ああ、これだ。安心して身を任せられる。やっぱり、僕にとっての彼氏は翔だったんだ。僕らは秋の深まる涼しい夜に熱く交わり続けた。


 翌朝、僕が目覚めると、湊と嶺くんが僕らをじっと見下ろしていた。


「わあ! なんだよ、二人とも!」


僕が飛び起きると、翔も眠い目をこすりながら起き上がった。


「あー、もうなんだよ。まだ眠いよ」


すると、湊が僕らをじっと見ながら、


「夜、二人でやってたの?」


と尋ねた。


「はあ? やってなんかないよ。ね、翔?」


「ああ、そんなの知らねえぞ、俺」


あくまでもとぼける僕らに、


「これ、僕の布団に落ちて来たんだけど。しかも、濡れたやつが」


と、湊は僕たちの前に使用済のティッシュを差し出した。あ、それは・・・。


「しかも、ずっと夜中までベッドがガタガタうるさいし、寝られねえよ。ぺちゃぺちゃいかがわしい音まで聞こえて来るしよ」


嶺くんがいかにも迷惑そうに言った。


「そもそも、いつの間に二人とも裸になってるんだよ」


そう言われて、僕も翔も一糸まとわぬ姿で寝ていたことに今気が付いた。僕らは顔を真っ赤にして俯いた。


「ごめんなさい」


「すまん」


謝る僕らを湊は責め立てた。


「ほーんと、変態だよね、二人して。僕らにやらしいことしてるとこ、見せつけようっていうんだから、本当、いい度胸してる!」


「別に見せつけようとしたわけでは・・・」


「見せつけてたでしょ!」


僕らはひたすら謝るしかなかった。


「じゃあ、決まった。僕のこれからの下僕のお友達。一郎と翔くんにけってーい!」


湊・・・。頼むからその「下僕のお友達」はあのいじめっ子三人組にしてください。お願いします!

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