第23話 自分に正直に
僕は、翔がまだ僕に気があるような素振りを見せたことにひどく混乱していた。翔が出会い系アプリを通じて新しい彼氏ができたと知って以来、ずっと翔のことを忘れようと努めて来たのだ。翔のことを好きな気持ちに蓋をし、なんとか今まで頑張って来たにも関わらず、翔自身によって再び心乱れるのだった。
その夜、僕の携帯に久しぶりに湊から電話が入った。
「やっほー! 一郎、元気してる?」
いつもの明るい湊の声に少しだけ僕の心は癒された。
「湊! 久しぶり。夏以来かな、声聞くの」
「そうだね。夏以来だよ。最近、一郎からも翔くんからも全然連絡ないし、つまんなかったよ。ねえ、二人は今も順調なの?」
「それは・・・」
僕がそう口ごもると、湊は騒ぎ出した。
「え? は? なに、順調じゃないの⁉」
「・・・うん。二学期が始まってすぐ、僕、振られちゃった」
「はあ⁉」
湊は、電話を通しているにも関わらず、僕の鼓膜を破りそうな大声で叫んだ。
「なんで? あんなに仲良かったのに、急になんで別れたの?」
「僕もわかんないよ。夏休みの後半からだんだん僕を遠ざけるようになっていって、二学期に入ってすぐ、もう俺に甘えるなって言われたんだ。もうお前とは付き合えないって」
「はあ? 意味わかんないんだけど。で、一郎、今、どうしてるの? 一人?」
「うん」
「新しい出会いとか、そういうのもないの?」
「いや、あるにはある・・・」
「あるにはあるってどういうこと? はっきり説明してよ。」
僕は夏合宿の最終日にりっちゃんから受けた告白と、翔に振られた後に受けた晃司からの告白について話した。すると、湊は大声で笑い出した。
「あはは、本当に一郎の周りの人たちって面白いね。一人は彼女持ちのレズビアン寄りのバイ、もう一人は一郎の友達の弟だって? 面白過ぎるよ」
「笑いごとじゃないって。りっちゃんにはいきなりキスされるし、晃司には襲われそうになるし」
「で、一郎はどう返事したの?」
「断ったよ。りっちゃんは女の子だから僕の恋愛対象外だし、晃司も年下の子と付き合うのはちょっと抵抗ある。しかも、あいつ、信一の弟だし」
「それで、二人は納得した?」
「わかんない。りっちゃんは別に付き合えなくても、そばにいられたらいい、なんて言ってる。晃司は僕は付き合う気にはなれないって伝えたけど、わかったとは言ってくれなかったな」
「そういうの、ちゃんとさせておいた方がいいよ。二人とももう一度ちゃんと向き合って話さないと」
「うん・・・」
やっぱりもう一度、しっかり二人の意思を確認しないとダメか。ずっと翔のことばかり考えて、二人とのことはおざなりになっているもんな。
「翔くんは? 翔くんの方はどうしてるの?」
「湊が昔やってた出会い系アプリに登録してた。そこで新しい彼氏ができたって」
「は? アプリ始めたの? しかも新しい彼氏までできたって⁉」
湊がまた大声で叫んだ。
「うん・・・」
「あいつ、そんなことやってたのか。何考えてるんだよ、まったく。で、その後翔と話す機会はあったの?」
「うん。今日、実はたっちゃんの家に翔と二人で行って来たんだ」
僕は湊にたっちゃんの家を翔と訪れることになった経緯と、今日の翔が僕との復縁を匂わせたことを話した。
「え、あいつそんなこと言ったの?」
「うん。言った」
「はぁ。何やってるんだろうな、あいつ。わかったよ。じゃあ、今度僕からそれとなく翔に話を聞いてみる」
やっぱり湊は頼もしいや。困った時の湊頼みって感じだ。だが、いきなり湊は
「で、一郎は翔くんのことどう思ってるの?」
と僕に尋ねた。僕は狼狽した。
「どうって・・・。もう諦めなきゃいけないなって思ってる。あいつには彼氏もできたっていうし、僕があいつの周囲をこれ以上ウロウロしたら、その彼氏の子に悪いよ」
「そういうことじゃなくて、一郎の本心だよ。じゃあ、翔が今その彼氏と別れました。フリーです。一郎とまた付き合いたいですって言って来たらどうする?」
湊の追及は手厳しい。僕はどんどん追い込まれていった。
「それは・・・断るよ」
「嘘だ。一郎、翔くんのことまだ好きでしょ?」
「・・・もう好きじゃないよ。もう僕の彼氏じゃないんだもん」
「そういうことじゃなくて、翔のこと忘れられてないよね?」
湊の追及に僕はもう耐えられなかった。
「・・・うん。翔に会いたい。翔にキスしたい。翔に抱かれたい。翔と一緒にいたい。翔がいい。僕、翔の彼氏に戻りたいよ」
僕は自分の気持ちを抑えることができなくなっていた。
「だったら、ちゃんと正直に一郎の気持ち、翔に言いなよ」
湊が僕にそう優しく促した。
「無理だよ・・・。また遊びに来いって言われた時に、もう彼氏持ちの翔とは付き合えないって言っちゃったもん・・・」
「一郎、もっと自分に正直になりなよ。このままじゃ、絶対後悔するよ?」
「でも、どうしたらいいかわからないよ」
「そうだ。一郎の高校、もうすぐ文化祭だよね。僕、今年も遊びに行っていい?」
いきなり文化祭の話? でも、そういえば、文化祭に湊と嶺くん呼ぶの忘れていた。
「うん! 来て来て! 再来週の週末だから」
「わかった。じゃあ、今年も一郎のとこ、遊びに行くね。その時、僕も付き合ってあげるから、ちゃんと翔くんと話しよ? ね?」
そういうことか。湊が一緒にいてくれるなら、僕も心強い。
「・・・うん。わかったよ。でも、約束だよ? 湊、絶対一緒にいてね?」
「大丈夫だって。ちゃんと一緒に話聞いてあげるから、安心して」
本当に湊は優しい。僕は、湊と出会えたことに感謝しかない。湊と話していると、自然と大丈夫だという気分になってくるのだ。湊を交えて翔と話をした上で、それがどんな結果になろうと、僕は前を向いて歩いて行こうと思えた。
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