第五章 それでもなお
第21話 「男友達」
僕はとうとう翔との関係を諦めることにした。だが、この失恋のショックはあまりにも大きかった。告白されていた晃司ともりっちゃんとも向き合う気が起きず、二人への返事はおざなりになったままだった。それ以上、二人との関係が進展することはなかった。
文化祭の出店の準備は着々と進んでいた。文化祭の準備が進み、学校が一気に色めき立ってきていたある時、僕の教室にたっちゃんが飛び込んできた。
「一郎先輩! 助けてください!」
クラス中からの視線が、そのただならぬ様子に僕とたっちゃんに集中した。クラスメートたちがひそひそ話を始める。ここで話を聞くのはまずいな。
「ちょっと場所、変えようか」
僕はたっちゃんを連れ立って、空き教室へ避難した。
「どうかしたの?」
僕がたっちゃんに聞くなり、たっちゃんは泣き出した。
「わたし、料理部にずっと所属していること、両親には内緒にしていたんですけど、この前バレてしまって・・・。そんな女っぽい軟弱な部活なんて辞めてしまえって怒られてしまいました。しかも、りっちゃんと仲良くしていることまでバレて、まだ女の子と付き合っていたのかって。男友達を作れって言っただろうって言われちゃいました・・・」
泣きじゃくるたっちゃんを慰めながら、僕は次のような提案をしてみた。
「だったら、僕を友達として紹介してくれていいんだよ? 晃司や栄斗もいる。僕たち、全員男友達でしょ? 料理部員の唯一の女子部員がりっちゃんなんだ。だから、料理部は女っぽい部活じゃないってアピールできるじゃん」
「・・・ありがとうございます。でも・・・」
たっちゃんは言い出しにくそうに僕に言った。
「一郎先輩だけだと、ちょっとなよなよしているというか、その、もっと男っぽい友達の方がいいっていうか・・・」
僕がなよなよしてるって? 失礼な! 僕がちょっと不機嫌になるのを見て、たっちゃんは慌てて言った。
「失礼なこと言ってごめんなさい! どうか気を悪くしないでください。でも、わたしの父、男友達は男友達でも、スポーツをやっているような体育会系な男子としか付き合っちゃいけないって言ってるんです」
確かに僕は体育会系とは真逆の性格をしているけど・・・。
「じゃあ、栄斗を連れて行ったらいいんじゃない?」
「ダメですよ。栄斗さん、自分が料理部員であること、部員以外には口外しないことにしているんですから」
そうか。そうなると、たっちゃんを助けてあげられる人。誰もいないな・・・。
いや、そういえば、あいつだ。あいつがいる。もう僕とあいつとの関係は完全に終わったものだと思っていたけど、背に腹は代えられない。こういうときくらいはあいつの手を借りてもいいだろう。
「ちょっとついてきて」
僕はたっちゃんを連れて三年生の教室へ向かった。そのまま、翔の座る席へと直行した。翔は、ぼうっと一人で窓の外を眺めていた。だが、僕らを見ると、驚いたような顔をし、同時にその場を立ち去ろうとした。
「ちょっと待って」
僕は翔を呼び止めた。
「今日、ここに来たのは翔の・・・ううん。赤阪先輩の手を借りたくて来たんです」
「俺の?」
翔は僕らの方を振り返った。僕はたっちゃんの事情をすべて説明した。
「だから、たっちゃんの友達として、たっちゃんの両親と話してもらいたいんです。よろしくお願いします」
そう言って、僕は翔に頭を下げた。
「もう、そんな風に改まって話すのやめろって。いいよ、普通で」
翔はとても気まずそうな様子だ。僕はそれには答えず再度頭を下げた。
「お願いします!」
「・・・わかったよ。たっちゃんの両親に会えばいいんだろ? 行くよ。行くってば」
翔は渋々といった様子で承諾した。
「よかったね、たっちゃん。これでご両親も説得できるはずだよ」
僕はそう言って、たっちゃんの方を振り返った。
「本当にすみません。いいんですか? だって、翔さんは・・・」
「いいのいいの。僕、もう気にしてないから」
本当の所、未だに失恋をずるずる引きずっていたくせに、僕はそうたっちゃんに笑いかけた。翔と二人でいられる。そのために翔に助けを求めたんじゃないかと聞かれた時に、僕はきっぱりとそれを否定することはできなかった。
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