第20話 完全なる終わり

 晃司の突然の告白から数日経っても、僕は晃司と付き合おうという気持ちにはならなかった。それどころか、どんどん翔への気持ちが膨らんでいった。僕は、もうほとんど翔のストーカーのようだった。休み時間になると、翔の教室の前で過ごすようになった。すると、翔は教室のドアを必ず僕の目の前でピシャリと閉めるのだった。それでも、僕は諦めることができず、翔の教室の前に立ち続けた。


 そんな僕の姿は高校三年生の生徒たちの間で話題となった。どうやら僕と翔が別れたらしいという噂が一気に広がった。その噂は学年を飛び越え、僕の二年生、料理部員たちの一年生にも知れ渡るところとなった。信一や華ちゃんは僕のことを心配して声をかけてくれた。新藤前部長や水沢先輩も僕を最大限気遣ってくれた。だが、誰かに優しい言葉をかけられればかけられるほど、僕の気持ちの切なさは膨れ上がり、一目でも翔に会いたいと翔の教室に通い続けるのだった。


 僕が翔と別れたという噂を耳に入れた晃司とりっちゃんの僕へのアピールが激しさを増して行った。晃司とりっちゃん。しかし、この二人からの猛アプローチに、僕の心は一切動くことはなかった。


 料理部としては、そろそろ文化祭への準備がスタートした。僕らは今年も出店を出すことになった。今年のメニューは、無難に焼きそばを作ることにした。簡単でおいしいので、屋台で出すにはぴったりのメニューだ。


 そんなある時、


「あ、一郎くん、大変っすよ。ちょっとこれ見てよ」


栄斗は僕を発見するなり、自分の携帯を取り出して僕に見せつけた。見ると、いつぞや湊が使っていたゲイ向け出会い系アプリの画面が表示された。


「これ、栄斗もやってたの?」


僕が尋ねると、栄斗は恥ずかしそうに、


「あ、まぁね」


と誤魔化した。


「そんなことより、これですって!」


栄斗がある一人のユーザーをクリックした。見れば、そこには翔の顔写真がプロフィール画像に乗っている。「彼氏募集中です」なんて、書かれていた。


「これ、翔さんすよね? これ、やばくね? 一郎くん、ちゃんと翔さんに確認した方がいいって」


僕は思わず部室を飛び出し、翔の家に全速力で走った。翔の家のインターホンを何度も押す。翔が迷惑そうな顔をして中から出て来た。


「近所迷惑になるだろ。いい加減にしろよ」


翔が怒るのを無視し、僕は翔にまくし立てた。


「出会い系アプリやってるって本当? どういうつもりでそんなもの始めたんだよ。僕は認めないから。翔がそんなものやって、他の男と恋人関係になるとか、絶対認めないから」


「お前には関係ないことだろ。放っといてくれよ」


「放っておけるわけないだろ! 僕は、翔のこと諦めたりしない。翔がどんなに僕のことを拒絶したって、僕は翔のことが好きだ。だから、頼むよ。出会い系アプリなんてやめてよ」


僕はボロボロ涙をこぼしながらそう言った。


「もう言ったはずだぞ。俺とお前はもう他人だって。もう、俺を追い回すのはやめろ。これ以上俺に関わるな」


「嫌だ! 絶対に嫌だ。そんなの・・・嫌だよ・・・」


僕は翔にしがみついて泣きじゃくった。すると、翔は乱暴に僕を引き剥がすと、ドアに僕を叩き付けた。ドアがドーンと大きな音を立てる。


「じゃあ、こう言ったら諦めるか? 俺には、もうアプリで知り合った男がいるんだよ」


僕は心臓が止まりそうになった。僕は思わず翔の頬を張り飛ばした。そのまま僕は泣きながら翔の家を飛び出した。マンションの他の住民が僕らの騒ぎを聞きつけて様子を見に集まっていた。その人たちをかきわけ、僕はマンションの階段を駆け下りた。そのまま僕は夢中で走り続けた。


 僕はいつしか、翔に告白を受けた時の河川敷に立っていた。翔との様々な想い出が走馬灯のようによぎった。僕はその場に突っ伏して大声で泣き出した。何度も何度も河川敷に生えている草をむしっては土を拳で叩きつけた。手は血だらけになっていた。だが、僕はいつまでもその場で泣き続けていた。

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